咳・痰の薬(13/9/2更新)

[鎮咳剤(咳を鎮める薬)]
脳幹の延髄に咳中枢という咳のコントロール部があり、のどや気管支の刺激を受けて咳を起こさせます。その部分の興奮を抑えこむことで鎮咳作用を発揮します。中枢性鎮咳薬と言います。どちらかというと、痰の少ない空咳向きです。

非麻薬性
咳中枢に作用する代表的な「非麻薬性中枢性鎮咳薬」です。粉薬は、他の薬と混ぜて調合することも多いです。
メジコン、アストミン、アスベリン、レスプレン、トクレス、フスタゾール、コルドリン)※太字は当院使用のもの

麻薬性
咳中枢に作用する「麻薬性中枢性鎮咳薬」です(麻薬性といっても成分のことで医療用ですので心配いりません)。麻薬の持つ鎮痛作用や、鎮痙作用はあまり強くありません。鎮咳作用のみ強調されたものです。古くから、咳止め薬として広く用いられています。わりと強い薬なので、咳のひどいときに屯服として処方されることが多いです。
コデイン、ジヒドロコデイン、フスコデ、セキコデ、ブロチンコデイン液)

合剤
鎮咳作用をもつものに、気管支拡張剤抗ヒスタミン剤等を含んでいるものです。
(フスコデ、カフコデライトゲン

その他
フェノバルビタール(フェノバールエリキシル)
咳中枢だけでなく、大脳、脳幹など、中枢神経全体のはたらきを抑えて眠りに導く薬です。精神的な不安、緊張を鎮める作用ももつので、鎮静剤として使用されることもあります。子どもの場合、百日咳等あまりに強過ぎる咳のために全く眠れない時に、寝かせて咳を止めようという目的で使用することがあります。屯服としてしか使用しません。
ステロイド(リンデロン)
ステロイドは炎症を抑える最も強力な作用をもつ薬で、他にも多くの作用があることから、さまざまな病気や症状の治療に使われています。気道の炎症を抑える働きがあるので、気管支喘息の予防薬として、今はステロイドの吸入が治療の主役になっています。が、咳が強い時には吸入では即効性が無く効きません。鎮咳剤は痰が出にくくなるので、あまり使用しません。発作時に気管支拡張剤の吸入をしても何をしても止まらない咳が出る時には、内服のステロイドが使用されます。ステロイドの中でも最も即効性があり力の強いものが、ベタメタゾン(リンデロン)です。効果は非常に早くすぐに効きます。排泄も早いと言われますが連用はできません。屯服としての使用か、少なくとも2日以内には止める必要があります。クループの時も、呼吸が苦しい時には使用します。多めの量を服用してごく短期間で止めるという使い方がベストです。

[去痰剤]
気管支炎などで気道に炎症を生じると、分泌液の粘りが強くなり、排出しにくい痰となります。去痰薬は、痰をうすめたり、痰を分解することで、その粘度を下げ排出しやすくします。さらに、気道の潤滑をよくするもの、線毛運動を高める作用を持つものなどもあります。

気道粘液修復薬
気道分泌の異常を修復し粘液を正常化、痰を排出しやすくします。ムコダインは、慢性副鼻腔炎の排膿や、滲出性中耳炎の排液にも適応し、内科や耳鼻咽喉科、小児科などで広く処方されています。
ムコダイン、クリアナール、スペリア)

気道潤滑薬
肺表面活性物質を増やし、気道粘膜の“すべり”をよくすることで去痰効果を発揮します。MM処方と称し、作用機序の異なるムコダインと併用することがあります。
ムコソルバン

気道分泌促進薬
気道の分泌液を増やし痰をうすめます。痰がうすまると粘りがなくなるので、吐き出しやすくなります。ビソルボンは古くから使用されている代表的な去痰薬です。アスベリンとレスプレンは咳止めにもなります。ブロチンとセネガが植物由来のエキス剤です。
ビソルボンアスベリン、レスプレン、ブロチン、セネガ)

気道粘液溶解薬
痰を分解・溶解させ、その粘度を低下させます。分泌液を増やす作用や線毛運動をよくする作用もあります。
(チスタニン、ペクタイト)

[副作用]
非麻薬性鎮咳剤はあまり副作用はありません。食欲不振、眠気、頭痛、めまい便秘等は記載されています。
麻薬性鎮咳剤も、眠気やめまい、吐き気や嘔吐、便秘、血圧の変動、不整脈などはあるようですが、多くはありません。安易に長期に飲み続けると、体が薬に頼りがちになってきます。このとき急に中止すると、吐き気や頭痛、不安感、震えなど反発的な症状がでることがあります。このような場合は、医師の指示のもと徐々に減量するようにします。
フェノバルビタールは大人では眠気やふらつき、注意力が低下することがあります。長期に多めの量を飲み続けると、体が薬に慣れた状態になり止めにくくなります。このとき急に中止すると、いらいら、強い不安感、不眠、ふるえ、けいれん、混乱、幻覚など思わぬ症状があらわれることがあります。(徐々に減量すれば大丈夫)。
まれに呼吸器系の疾患のある場合に息苦しい、起床時の頭痛・頭重感が起こることがあります。
リンデロンは、消化不良の報告が少し多いようです。短期間の使用ではまず何もありませんが、長期間使用した場合に、時に現れる副作用としては、視力の低下、霧視(むし)(目の前に霧がかかったようになる)、口の渇き、頻尿、食欲の増加、体重の増加、神経過敏、不安、多幸感(わけもないのに楽しい感じになる)、睡眠障害など。まれに現れる副作用としては、発疹、小児の発育不良、腱断裂、内分泌異常、血栓症、皮膚のぜい弱化など。長期間がどのくらいの期間をさすのか、という事は量にもよるので一概には言えませんが、少量服用の場合は6か月以上を指すようです。
去痰剤は一般的にどんな薬でも起こりうるもの以外に特別な副作用はなく、非常に安全な薬です。


いつも言っていることですが、咳は気道の異物(痰やほこりなど)を排出させようとする自然な防御システムです。ですから、むやみに止めればよいというものではありません。特に、痰をともなう咳を無理に止めることは好ましいことではありません。一方で、しつこい咳は安眠を妨げ、体力を消耗させます。時には、激しい咳き込みで肋骨が折れていしまうこともあり得ます。このような場合は悪い影響のほうが大きいですから、咳止め薬を用いることになります。
咳がひどいから止めて欲しいと来院される方は非常に多いです。痰の絡んだ咳には強い鎮咳剤は使いたくはないのですが、眠れない、咳き込み嘔吐がひどい…、1か月近く止まらない、となると徐々に薬の用量が増え…徐々に強い薬に変わり…。喘息の発作でなくても最終的にはステロイド投与をするのですが、これで劇的に効果があることが多いです。が、中には何を飲んでも全く咳は止まらない…というお子さんがおられ、こうなるとお手上げです。意外と本人は元気にしていたりするので、我慢に我慢を重ねて待っていると落ち着いてくるので、薬を処方しても治らないという不甲斐なさで申し訳なくも思うのですが、まあ日にち薬も大切なようですね。

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