気管支拡張剤(β2受容体刺激剤)(13/8/12更新)

[β2受容体刺激剤とは]

気管支平滑筋にある交感神経のβ2受容体を刺激して、収縮していた平滑筋を弛緩させ、気管支を拡張する作用をもつ薬剤のことです。気道を広げることで、呼吸を楽にするので喘息の治療に使用されます。

[薬の種類]
β2刺激薬には、長時間作用・短時間作用の2種類があります。
長時間作用型β2刺激薬は、喘息の発作を起こさないよう予防するための薬(長期管理薬)として使用されます。
吸入ステロイド薬と併用され、喘息発作を予防します。 ゆっくりと気管支を広げます。副作用が少なく、高い効果を得られます。
短時間作用型β2刺激薬は、喘息発作の時に使用します。気管支を拡張する強い作用があるので、喘鳴や呼吸困難、咳などの症状を速やかに改善します。
剤型としては経口、吸入、貼付薬の3種類があります。

[副作用について]

β2刺激剤のβ2選択性は完全ではなく、ある程度は他のアドレナリン受容体にも作用してしまいます。一般に短時間作用型β2刺激剤の吸入は少量で有効で、全身的な副作用は出にくいです。が、一部の患者さんで振戦、動悸、頻脈、頭痛、悪心、といった副作用が起こることがあります。稀にβ2刺激剤を定量噴霧型吸入器やネブライザーによって吸入した後に気管支痙攣を引き起こす例が報告されており、「矛盾した気管支収縮」と呼ばれています。多くの場合原因不明ですが、添加剤へのアレルギー反応など、β2刺激剤が直接の原因でない例もあると考えられています。経口薬の場合は動悸、頻脈、振戦(手指などの細かいふるえ)、脱力感、頭痛、めまい、などがより起こりやすいようです。子どもの場合はあまりこういった副作用を訴えることはありませんが、小学校高学年の女性から報告頻度が増えてくるようです。

ホクナリンテープ(ツルブテロールテープ等)
これが「咳止めのテープ」として、耳鼻科も含めた多くの医療機関で処方されているものです。が、これは咳止めではなく、即効性のない気管支拡張剤です。

[薬理作用」
ホクナリンテープの裏には気管支拡張剤が塗ってあり、貼るとゆっくり皮膚から薬が吸収され、6〜8時間後に血中濃度が上がり、12時間以上持続して気管支を広げる効果があります。夕方に貼っても朝まで効果が持続するので、早朝に起こる喘息発作を予防することができます。発作を抑える働きはありません。

[効能]
気管支喘息、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫の気道閉塞性障害に基づく呼吸困難など諸症状の緩解。
気管支拡張剤ですので、咳を止める働きは決してありません!

[ホクナリンテープを処方するとき]
急性気管支炎の場合ホクナリンテープを貼ることで、気管支の平滑筋の収縮をおさえ咳反射を抑制します。また、せまくなっている気管支が長い間広がるため、息苦しさが改善されます。
では急性気管支炎とは?急性上気道炎(風邪)と急性気管支炎の違いは炎症を起こしている場所の違いのみです。どうして診断しているのかは、次のような特徴からです。「湿性咳嗽がみられ、発熱や胸部聴診所見にてラ音が聴取されることがあるが、胸部単純X線では明らかな異常陰影を認めない。通常は乾性咳嗽、鼻汁などの上気道炎症状が先行する。」これに従って湿った咳がたくさん出て、聴診してラ音が聞こえる場合は急性気管支炎と診断しています。気管支炎と診断した時に、朝方に痰の絡んだ咳がひどくなる場合には、テープの持続が長い特徴を利用し、去痰剤との併用で痰を排出する効果を上がるのを期待して処方しています。

[効果について]
この貼付剤は朝の喘息発作を抑える、という触れ込みで画期的な薬として発売されました。気管支拡張剤としての作用は経口薬よりは少し弱いという印象で、喘息の発作が起こった時にテープのみしか処方されていない場合は、効果の発現が遅いのもあって、非常に長時間苦しい思いをされている方が多いように思います。とにかくすぐには効きません。
従って喘息の場合はステロイド剤をメインにおいて、上気道炎を起こした時に発作が起こりやすいので、予防として咳が出だした時に早めにテープを貼る、という指導をしています。それでも喘鳴が起こって苦しくなったときには気管支拡張剤の吸入、経口薬に切り替える必要があります。
時々小さいお子さんでも振戦(手指などの細かいふるえ)を訴える方はありますが、副作用は経口薬よりも少ないです。

実際には喘息も気管支炎も無いのに、この薬は実にたくさん処方されています。保健センターの健診時、学校健診、保育所健診の時にこのテープを張っている方をよく見かけます。保護者の方に喘息があるのですか?気管支炎と言われましたか?と聞いてもほとんど、いいえという答えが返ってきます。風邪で咳が多い場合、胸部の聴診をしない耳鼻科の先生、乾性の咳が出ている時、クループの症状にさえ咳止めとして処方されています。ちょっと考えられないことですが…。
保護者の中には、咳がひどかったので、前に他の医療機関で咳止めとしてもらったテープを貼ったら、ピタッと咳が止まったと、とても信じられないようなことを言われる方があります。なので咳のひどい時にはこの薬の処方を希望される方が多いです。咳止めのテープを下さい、と。私は必ず気管支拡張剤のテープですね、と言い直し、貼ってすぐに咳が止まることは絶対にありえない事だと説明しています。夜に寝られないほどの咳は、本人にとっても、看ている保護者にとっても非常につらいことではあるので、こちらとしても乞われてついつい処方してしまうことがあるのですが…。
効果が少し弱いという印象なので副作用も出にくいようですが、薬の中身は気管支拡張剤でありますので、必要のない時には使わない、という事を心がけないといけないですね。

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