エンテロウイルス感染症(06/6/26更新)

エンテロウイルスという名は、殆どの方はあまり聞かれた事がないと思います。エンテロウイルスによる感染症は、夏から秋にかけて多く発生します。夏のかぜの代表としてよくあげられる手足口病やヘルパンギーナを起こすウイルスは、このエンテロウイルスに属しますので、今回はこのお話をします。

[病原体]
エンテロウイルスは、腸管で増殖するウイルスの総称です。人に感染症を起こすのは67種類(ポリオ1〜3型、コクサッキーA群1〜22型、24型、コクサッキーB群1〜6型、エコー1〜7型、9型、11〜27型、29〜31型、エンテロ68型〜71型)のウイルスが存在し、年毎に流行するウイルス型が異なります。夏季を中心に5月から10月にかけて流行します。

[症状]
エンテロウイルスが主として腸管あるいはその近辺の限られた組織にとどまる場合は無症状で経過し、人は免疫を獲得して感染は終わります(不顕性感染)。感染がさらに進み、ウイルス血症を起こして体内の諸組織及び中枢神経系へ波及すればそれぞれの段階に応じて種々の臨床症状を起こすことになります。同じ型のエンテロウイルスが異なる症状をきたし、異なるエンテロウイルスが同じ症状をきたすことがあるので、臨床症状のみでは病因ウイルスを特定することは困難です。
最も軽い疾患としては発熱、またはこれと上気道炎症状を併発した急性熱性疾患(いわゆる夏かぜ)です。その他、皮膚・粘膜の発疹、心嚢炎、またはウイルスが中枢神経へ進入すれば無菌性髄膜炎あるいは麻痺を起こすことになります。

表1.エンテロウイルスによる感染症
呼吸器
風邪様症状、咽頭炎、ヘルパンギーナ、口内炎、急性気管支炎、肺炎、胸膜痛
皮  膚
発疹、手足口病(CA16、EV71)
神  経
無菌性髄膜炎、急性脳炎、神経麻痺(EV71)
消化器
嘔吐、下痢、腹痛、肝炎
急性出血性結膜炎(CA24、EV70)
心  臓
急性心筋炎(CB1〜6)

表2.類型別のエンテロウイルス感染症
疾病
法的類型
ウイルス
感染経路
臨床症状
発生状況





2類
ポリオ1〜3型 感染者の便から排出(経口感染)接触・飛沫感染もある
ウイルス排出期間(便:数週間、咽頭拭い液:1週間)
発熱、頭痛、倦怠感、嘔吐、筋痛、頸部硬直、ケルニッヒ徴候、麻痺 感染力は極めて強く、全世界に分布
1961年から生ワクチン投与が行われて患者発生は激減
2002年 WHOは西太平洋地域に根絶宣言





4類
基幹
定点
エコー
コクサッキーA・B群
ポリオ1〜3型
エンテロ71
(ムンプスウイルス)
経口感染(飛沫感染、腸管幹線)
感染力は強い
発熱(38〜40℃)、頭痛、嘔吐、悪心、下痢
予後は良好
多種多様な病原体が関与しているので必ずしも一定の疫学的パターンをとるとは限らない
エンテロウイルスによる場合は、初夏から発生が増加し始め、夏から秋にかけて流行
罹患年齢:幼児、学童



4類
小児科
定点
コクサッキーA・B群
エンテロ71
経口・飛沫・接触感染 口腔粘膜及び四肢末端に水疱性発疹 夏期に流行
罹患年齢:幼児期
エンテロ71:重症神経疾患患者から分離された






4類
小児科
定点
コクサッキーA群 経口・飛沫・接触感染 口腔粘膜に現れる水疱性発疹と発熱(38℃↑) 夏期に流行
罹患年齢:幼児(4歳以下が多い)







4類
眼科
定点
エンテロ70
コクサッキーA24
接触感染 充血、眼痛、眼脂、まれに四肢麻痺 1960年代終りに爆発的な流行が見られたが、東京では1982年以降流行はない

[感染経路]
エンテロウイルスは,感染した人の気道の分泌物(例えば,唾液,痰,鼻の粘液)の中に出てきます。この分泌物が付着したものをなめたり,触れた手をなめたりして,ウイルスを自分の口やのどの粘膜に運ぶことによって,周囲の人が感染することがあります。また,エンテロウイルスは便の中にも存在するので,患児のおしめを替えるときなどに,手に便が付着しよく手を洗わないで食事してウイルスを自分の口に運ぶことによって,周囲の人が感染することがあります。

[治療]
特別に効果のある薬はありません。症状に合わせた対症療法です。「ひにち薬」ですね・・・。通常,無菌性髄膜炎を起こした場合でも,長期に残る後遺症もなく回復することが多いです。しかし,脳炎や麻痺を起こした場合には,十分には回復しないことがあります。拡張性心筋症や糖尿病を起こした人は,その疾患に対する長期の治療を必要とします。

最近は、ただ単に「風邪」といわずに、溶連菌感染症マイコプラズマ感染症アデノウイルス感染症、という風に、原因になる菌や、ウイルスの名前をあげて説明することが多くなりました。溶連菌やマイコプラズマはもうご存知の方が多いとおもいます。アデノウイルスも検査キットのおかげで、今年は特に多いし、かなり市民権を得だしたのではないでしょうか?しかし、このエンテロウイルスは、え?何?という方が殆どで、検査キットも無いし、目でみてわかるものではないですね・・。ただ私がよく、「夏風邪のウイルスはおなかで増えるから、同時におなかの症状を起こすことが多いですよ、」という説明をするのは、このエンテロウイルスがかかわっていることが多いからです。ウイルスの名前を覚える必要はありませんが、風邪の原因はウイルスが殆どで抗生物質は効かない、ということを多くの方にわかって頂きたいと思います。

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