川 崎 病

  川崎病という病名はお聞きになったことのある方もおられるでしょうか?先週お話した伝染性単核球症と、症状が似ているところもあります。高熱が続いて発疹の出る病気です。溶連菌感染症麻疹とも少し似ています。この病気は年によって多いな、と感じる時とそうでない時があります。昨年始めまでは診ましたが、その後は今年もまだ1例も診てはいませんが、大体年間数例はあります。今週は川崎病のお話をします。

[定義] 1967年に川崎富作先生が『急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群』として報告したのが初めてでした。今まで見られなかった高熱、発疹、眼球充血、口唇発赤、リンパ節腫脹などがあり、発病から数週間で突然心臓の発作で亡くなってしまう事があることなどに気付きました。主に4歳以下の乳幼児に起こる、全身の中小動脈の炎症を起こす病気です。

[頻度] 厚生労働省の研究班の調査では、1970年以降2000年までに約15万人が報告されています。年間5000人前後、多い年で約8000人の新しい患者さんがでています。発病年齢は6ヶ月から1歳代に多く、4歳以後は少なくなります。男児にやや多い傾向があります。

[原因] 不明です。色々な説がありましたが、まだわかっていません。遺伝する病気でもありません。

[症状] 特徴的な6つの症状があります。

  • 発熱:38℃以上の熱が5日以上続きます。抗生物質は無効です。解熱剤でも熱は下がりにくいです。
  • 四肢末端の変化:急性期には指趾先が赤くなり、手背、足背が腫れます。パンパンに腫れるので硬性浮腫と呼ばれます。回復期には爪と指先の移行部から膜のようにペロンと皮が剥けてきます。
  • 発疹:特定の発疹ではありません。小紅斑、蕁麻疹様と発疹の形は様々ですが、水泡にはなりません。BCGの接種部位が赤くなるのがその他の病気にはなく特徴的です。
  • 眼球結膜充血:病初期からみられ、4〜5日間続きます。目やにはありません。
  • 口唇、口腔所見:口唇が充血乾燥し、ひび割れ出血します。舌の表面にぶつぶつが目立ちイチゴ舌と呼ばれます。
  • 頸部リンパ節腫脹:首の痛みを伴うリンパ節腫脹がみられます。

    その他、消化器症状(腹痛、下痢など。肝機能障害、胆のう腫大、黄疸)。神経症状(髄膜炎、けいれん、四肢麻痺)。一過性の関節痛などが見られます。

[心合併症] 心臓に栄養を与える冠動脈を中心に炎症がみられ、その結果血管が細くなりますが、その手前の中心側は拡大して動脈瘤ができます。その為血栓性閉塞、心筋梗塞による虚血性心疾患により突然死をきたすことがあります。致死率は0.3%程度で、数ヶ月数年後に再発例もあります(2〜3%)。心エコー上、冠動脈の拡張は第5病日頃より始まり、第15病日頃が最も頻度が高く見られます。約80%は冠動脈に変化が見られず、約1ヶ月で炎症が収まり、あとは全く心配がありませんが、このような子供たちが中年以降になり、冠動脈硬化などがどのように進行するか、冠動脈硬化が起こりやすいかどうかについては、まだわかっていません。

[治療] この病気は原因が不明のため、根本的な治療は出来ませんが、最近は以前よりは、心合併症を少なく出来るようになりました。急性期にはまず、冠動脈の炎症を防ぐため、ガンマグロブリンの点滴静注を行い、同時に炎症を治療するためにアスピリン等の抗炎症薬を使います。急性期以後は、冠動脈に障害を残さなかった例では、約1ヶ月間の抗炎症薬を中止した後は特に治療は不要です。稀に後になって冠動脈瘤が出現することもあるので、年に1〜2度の検診が必要です。直径4ミリ以上、特に8ミリ以上の大きな動脈瘤が残った場合には血栓が起こる危険性があるため、血栓予防が必要です。血管の狭窄が重症で、虚血性心障害が著しい場合には、細くなった血管のバイパス手術が必要になる事もあります。

 川崎病は初期は他の病気とも紛らわしいですが、高熱、発疹、眼球結膜充血といった特徴的な症状がでます。眼球結膜の充血、口唇の亀裂は一種独特で、顔を見ただけで小児科医ならあまり見逃すことは少ないのではないでしょうか?高熱の続く病気はたくさんありますが、早く見つかれば見つかるほど、早く治療出来れば出来るほど心合併症は少なくなりますので、疑わしきは罰せよ・・・位のつもりでもいいのではないでしょうか?そんなに多い病気ではありませんし、心配のしすぎもよくはありませんが、こういう病気がある事も心の隅には置いておいて下さい。

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