ギランバレー症候群(2016/2/29更新)

[ギランバレー症候群とは]
全身のすみずみまで分布している末梢神経の損傷によって起こる、多発性ニューロパチー(多発性神経炎)のひとつです。急速に発症する左右対称性の四肢筋力の低下と腱(けん)反射の消失を主徴とします。人口10万人あたり年間1〜2人の発症数であり、年齢別にみると若年成人と高齢者に発症のピークがあります。 約3分の2の患者さんが、発病の1〜2週前に風邪をひいたり下痢をしたりしています。手足のマヒの程度は発病してから1〜2週以内にもっともひどくなり、重症の場合には呼吸もできなくなります。
フランスのギラン氏とバレー氏らによって、1916年に報告された病気です。発見者の名前から、ギラン・バレー症候群と呼ばれています。別名を、「急性炎症性脱髄性多発神経炎」といいます。日本では特定疾患に認定された指定難病です。

[原因]
発症の1〜3週間前に咳や発熱、咽頭痛、頭痛、下痢などの感冒(感染)症状があることが多いので、各種ウイルスや細菌による感染が引き金となり、自己免疫的機序を介して発症する病気と考えられています。 神経細胞には軸索と呼ばれる長い枝の部分がありますが、この病気では主に軸索のまわりを取り囲む髄鞘という部分に障害が出ます。髄鞘の障害には感染の結果できた自己抗体が関与すると考えられています。
女性よりも男性になりやすいといわれています。
特に因果関係がはっきりしているのはサイトメガロウイルス、EBウイルスなどのウイルスや、マイコプラズマ、カンピロバクターの4つです。最近はこれにジカウイルスの関係が示唆されています。カンピロバクターは発症の1週間前頃に下痢、サイトメガロウイルス、EBウイルス、マイコプラズマは2週間前程度に上気道炎を先行感染として起こすことが多いです。ワクチンの接種後の発症例も認められています。ワクチンの場合は3週間以上前のことが多いです。従ってこの病気を疑った場合は、1週間前に下痢をしなかったか、2週間前に咽頭痛や咳、鼻水といった風邪の症状はなかったのか、1か月以内にワクチンの接種をしなかったのかと調査していく必要があります。

[症状]
感冒症状や下痢のあと1〜3週間して比較的急速に四肢の筋力低下が現れますが、通常は2〜4週間目でピークに達し、進行は停止します。進行停止後は徐々に快方に向かい、3〜6カ月でほぼ完全に治りますが、10〜20%の患者さんでは後遺症を残します。運動障害に比べて、感覚障害は軽いのが特徴です。
顔面の筋力低下も約50%の患者さんでみられます。舌や嚥下筋の支配神経に障害が出て、しゃべりにくい、飲み込みにくいなどの症状が現れることや、外眼筋支配神経障害が出て複視(物が2つに見える)が起こることもあります。呼吸筋の麻痺は10〜20%の患者さんで起こります。また、頻脈やそのほかの不整脈、起立性低血圧、高血圧など自律神経が損なわれた症状が現れることもあります。

[治療]
免疫グロブリンの大量静注療法、または血漿交換療法が有効な治療法です。免疫グロブリン大量静注療法は400mg/kgの用量で5日間行います。血漿交換療法の回数は症状の程度によって異なりますが、5m以上歩ける軽症例では隔日で2回、自分で立てない中等度例や人工呼吸器を装着されている重症例では隔日で4回くらい行います。これらの治療と並行して、筋力回復のためのリハビリテーションを行うことも重要です。

[予後]
従来、ギラン・バレー症候群は治療を行わなくても自然に軽快する予後の良い病気と考えられていましたが、一部の方は重症で、適切な治療がされないと後遺症を残す方もいます。従って、発症してからなるべく早く治療を開始する必要があります。
後遺症が残るのは10〜20%です。
症状の回復が不良な患者さんとしては、
(1)年齢が60歳以上
(2)キャンピロバクター・ジェジュニ(細菌の一種)の先行感染がある
(3)口咽頭筋麻痺がある
(4)人工呼吸器が必要である
(5)電気生理学的に軸索障害の所見あるいは複合筋活動電位振幅の消失がある
(6)発症から治療開始までに2週間以上を経過した
などがあげられます。

開業後は、お子さんでこの病気は経験していません。が、大人の方はありました。若年成人と高齢者が多い病気ではありますが、子どもたちも無縁ではありません。数は少ないですが、インフルエンザワクチンや、子宮頸がんワクチン接種が引き金になっているような報告もあります。少し注意は必要ですね。

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