体温のこと(14/2/24更新)

[平熱とは]
食べ物からの栄養をエネルギーに変えて運動をするといった、生命維持にとって重要な活動を代謝(体内で起こる化学反応)と言います。このとき運動に直接使われなかった残りのエネルギーは、熱となります。人の場合、エネルギーの75%以上が熱に変換され、体温の維持に用いられています。
脳の中にある「視床下部」というところがは自律神経系の中枢であり、体温の標準となる温度を決めて、常に体温を一定にするように働いています。そして熱を作り出す(産熱)か、熱を放出する(放熱)かの指令が視床下部から出されます。 寒いときに体が震えるのは、筋肉を動かして体温を上げるため。また寒いとき汗腺は閉じますが、逆に暑いときは、汗をかいて皮膚表面をぬらし、熱を逃がして体温を下げます。これらの体温調節反応は、視床下部からの指令によって行われています。
日本人の体温(平熱)は、平均36.89℃とされており、1日のうちの体温変化は、ほぼ1℃以内におさまるのが普通です。
体温はなぜ37℃なのか?その理由はハッキリとは分かっていません。化学反応は一般に、温度が高いほど活発になります。つまり、体温が高いほど代謝は活発になり、効率的に行われるはずです。が、細胞の温度が42℃を超えると、体内の酵素系の障害が起こり始めるので、これを超える高い温度は好ましくありません。つまり最適な体温は、できるだけ高いほうがいいのですが、一方では生命がおびやかされる42℃のレベルからは充分に離れていることが求められます。 約37℃という体温は、少々の発熱では42℃に届かないという条件で、充分に高い、つまり、ちょうどいい温度といえるのです。
体温がどれくらい下がるまで生命が持ちこたえられるかというと、その限界は37℃からは大きく離れていて、大体20℃近くで心臓の動きが阻害され、生命がおびやかされると考えられています。

[体温リズム]
体温は、熱が出る病気にかかっていなくても、運動、時間、気温、食事、睡眠、女性の生理周期、感情の変化などにより変動しています。また、ヒトには朝・昼・夜と、24時間単位の体温リズムがあります。これを「概日リズム」といいます。普通は1日のうちで早朝が最も低く、しだいに上がり、夕方が最も高くなります。1日の体温の差はほぼ1℃以内です。

[乳幼児の体温]
乳幼児はおとなに比べ、体が小さい割には体表面積が大きく、また皮下脂肪が少ないため皮膚から熱が逃げやすいという性質を持っています。新生児期は寒さにあてないように注意する必要があります。とくに小さく生まれた新生児では適正な環境温に保温する必要があります。
寒さにあてないよう注意すればいいかというと、そうではありません。乳幼児は体重あたりの食事摂取量が成人より多く、幼児期では運動量も多くなってくるため、体がつくる熱の量が多くなります。したがって首の周りや背中に汗をかいてないか気をつけてください。

[体温はどこで図るべきか]
体内の温度は、手足や皮膚に近いところでは低く、体の中心部にいくほど高くなります。手足や顔など、体の末端や表面の温度は、季節や環境温の影響を強く受けます。一方、体の中心部に近いところの温度は、脳や心臓など、大切な臓器の働きを保つために、高く安定しています。この安定した高い温度を「中核温(ちゅうかくおん)」といい、これを測れば、安定した指標としての『体温』が得られますが、体の内部の温度なので日常的には測れません。
ワキ下の温度は体表面の温度ですが、しっかりワキを閉じておくことで、体内の温度に近づきます。昔からある水銀体温計や「実測式」の電子体温計では、約10分間、ワキ下に体温計をはさんで測ります。ただ水銀体温計の場合は、欧米を中心に医療機関で水銀の利用を廃止する動きが出てきたため、日本でもだんだん使われなくなってきました。

[体温計の使い方]
実測式:測定部位のその時の温度を測定、表示する方式。
水銀体温計や電子体温計の一部のものがこの方式で、この方式では、これ以上上がらない温度(平衡温)になるまで測る必要があり、ワキで10分以上、口中では5分程度かかります。
予測式:平衡温を短時間で分析・演算した値を表示する方式。
実測式の欠点とも言える「測定時間」を短縮するために1983年にテルモ社が日本ではじめて開発しました。多くの人の体温上昇データを統計的に処理し、演算式にして、ワキであれば10分後の平衡温がどのくらいになるのかを、高い精度で短時間に表示します。したがって、予測式体温計は、約20秒の短時間で正しい体温を測ることができるようになりました。

[低体温と薬の影響]
非ステロイド系消炎鎮痛剤は場合によっては、解熱しすぎて体温が36度以下になることあります。小児に使うアセトアミノフェンはこの頻度はかなり少ないのですが、新生児や1歳未満では時にみられることがあります。35℃以下の体温になると少し虚脱状態になることもありますが薬の作用が切れたら、低体温は治ります。後遺症というのは特に明記されていません。
幼少時は体温調節中枢がうまくできてないからだろうとされています。
タミフルにはこういった解熱作用はありません。タミフルの添付文書ではカプセルには記載はありませんでしたが、ドライシロップには低体温の報告は0.8%とありました。

突発性発疹の後、またタミフルの無い時代、インフルエンザ等の高熱の解熱後に異常な低体温になった、という訴えは時々経験しています。
タミフルに関しては2005年に異常行動をおこす、との報告があってから、インフルエンザそのものが原因であったのかどうかはっきりわかりませんが、呼吸中枢を抑制するかも、などと取沙汰されるようになりました。従ってその後はインフルエンザの場合でも、希望されない方にはタミフルを処方しないこともありましたが、2009年新型インフルエンザの出現後は、なし崩しに処方すべき、という方向に変わっています。
今は当院ではインフルエンザには新しい抗インフルエンザ薬であるイナビルを中心に使っています。吸入のできない5歳以下の方の処方のみ、タミフルドライシロップという事になります。上述のように、まだまだ体温調節中枢がうまく発達していない年齢でもあります。ネットで見てみると、低体温になってそのままタミフルを飲み続けていると、低体温→体温中枢の抑制→呼吸中枢の抑制→死に至る…なんていう記載があったりするので、それだけ見ると、それを信じると怖いとしか感じられなくなりますよね…。個人的にはタミフルと異常行動については本当に因果関係があるかどうかは疑問でありますので、異常に怖がる必要はないと思っています。

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