新しいインフルエンザの薬(11/10/17更新)

抗インフルエンザ薬は、塩酸アマンタジン、オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)の3種類ありましたが、アマンタジンは耐性ウイルスが確認されていたため、最近ではほとんど使用されることはなく、実際にはオセルタミビルとザナミビルが使用されていました。作年の冬より、これに加えて新たにペラミビル(ラピアクタ)とラニナミビル(イナビル)の2種類が使用可能になりました。どちらもオセルタミビル、ザナミビルと同じくノイラミニダーゼ阻害薬ですが、長時間作用が続くため1回の使用で十分な効果があります。今までの薬は症状が軽くなると飲み忘れる(吸入し忘れる)ことがあったのに対して、1回で治療が完結すればそのような心配もなく、確実な効果が期待できます。

[ノイラミニダーゼ阻害薬について]
ノイラミニダーゼ阻害薬(ノイラミニダーゼそがいやく、Neuraminidase inhibitors)は細胞膜表面にあるノイラミニダーゼ(NA)を阻害する抗ウイルス薬の総称です。体内でのインフルエンザウイルスの増殖過程において、感染細胞からのインフルエンザウイルスの放出に必要なウイルス・ノイラミニダーゼを抑制することでインフルエンザウイルスの増殖を抑制します。そのため、ノイラミニダーゼを持たないC型インフルエンザには無効です。ノイラミニダーゼ阻害薬の登場以前から使われていたM2蛋白阻害薬(アマンタジンなど)ではA型インフルエンザにしか有効でないのに対し、A型/B型インフルエンザの双方に有効となります。感染した細胞からインフルエンザウイルスが放出される際に必要となるノイラミニダーゼを阻害することにより、インフルエンザウイルス表面にあるヘマグルチニンと宿主細胞表面のシアル酸の結合を維持することで、インフルエンザウイルスの体内での増加を防ぎます。そのため、感染初期において特に有効です。発症から48時間以降の場合、軽症者ではすでに解熱しているので有効性はほとんどありません。ただ、いまだ解熱していない重症者では生命を救う効果があります。2009年4月の新型インフルエンザでは、メキシコの重症者に発症数日後に処方しても、何らかの効果があったと報告されています。

[ペラミビル(ラピアクタ)について]
ペラミビルは注射薬で、点滴で使われます。注射のため早い効果が期待でき、重症のインフルエンザ患者の治療にも効果が期待されるほか、薬が飲めない場合にも使用可能です。ウイルスのノイラミニダーゼにいったん結合すると離れにくく、長時間にわたって効果が持続するため、1回の点滴だけで十分な治療効果が得られますが、症状に応じて複数回使用することも可能です。また、新生児や低体重出生児を除き、0歳児から使用可能であることから、乳幼児のインフルエンザ治療の第一選択薬と考えられています。
インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼにはN1〜N9までのサブタイプがあり、そのいずれに対してもペラミビルはオセルタミビルやザナミビルより強い効果があることが確認されています。そのため、人への感染が確認されているN1、N2、N3、N7だけでなく、今後流行が懸念される新しいウイルスに対しても抗ウイルス作用が期待できます。さらに、オセルタミビル耐性ウイルスに対しても効果があることが確認されています。

[ラニナミビル(イナビル)について]
ラニナミビルは、4剤目のノイラミニダーゼ阻害薬です。吸入剤としては、ザナミビルに次ぐ2番目の製剤となります。この薬は、プロドラッグであり、吸入後に加水分解によって活性代謝物に変換されます。この活性代謝物が長時間にわたり、ウイルスの増殖部位である気道や肺に貯留し、ウイルスの増殖を抑制するため、一度の吸入で治療が完結します。臨床試験では、オセルタミビルの5日間投与と同等の効果が確認されています。ペラミビルと同様にノイラミニダーゼのサブタイプN1〜N9のいずれにも効果が確認されているので、新しいインフルエンザウイルスが流行した場合にも効果が期待できます。
イナビルの1容器には、20mgのラニナミビルが2カ所に分かれて10mgずつ充填されています。容器の胴体部分をずらし、右にずれた状態と左にずれた状態で1回ずつ吸入する(吸い残しをなくすために、再度、左右で1回ずつ吸入することが推奨されています)。成人用量は1回40mgなので、1回に2容器分を使用します。つまり、治療自体は一度で完結しますが、吸入回数で言えば、成人では4回(吸い残しをなくすための再吸入を含めると8回)の吸入を行うことになります。このように、イナビルの吸入操作は若干複雑ですが、一般には、吸入操作自体が、医師や薬剤師などの医療従事者の目の前で、十分な指導の下に行われるものと考えられるので、患者の手技の巧拙による治療効果の差は出にくいと思われます。また、一度の吸入で完結するため、服薬忘れや、患者の自己判断による服薬中止などを心配する必要もないという利点があります。

日本臨床内科医会の昨シーズンのインフルエンザの調査によると 年齢層ごとに使用状況では、9歳以下はオセルタミビルの使用が多く、10代ではザナミビル、20〜59歳はラニナミビルの使用頻度が高かったといいうことです。

また、平均解熱時間から判定したノイラミニダーゼ阻害薬の有効性は4剤間で大きな差はありませんでしたが、患者の年齢層やウイルスの型・亜型によって、有効性が若干異なっていました。型・亜型別では、全般的にH1N1が最も解熱時間が短く、次いでH3N2、B型の順でした。ただし、ザナミビルによる治療群は、3つの亜型で大きな差は見られませんでした。ウイルスの型・亜型による有効性の差異は、ウイルス残存率でも認められました。

インフルエンザの薬もずいぶん種類が増え、選択肢が広がったのですが、逆にどういう風に使うかが迷うところです。吸入薬は小さい子どもにとっては本当に薬をすえているかどうかがわからない点が問題です。大人の方でも、口で呼吸することが上手でない方もおられます。点滴も薬の飲めないお子さんにとっては良いのでしょうが、点滴が必要なほど重症な例はあまりないかもわかりません。(そこまでする必要もなく治るかもしれない)。またすべての薬が、感染後早期の使用開始でないと効果がないため、抗インフルエンザ薬を処方しても解熱しないインフルエンザに点滴のペラミビルを使用して、著効を示してくれるかどうかはわかりません。1回の吸入でよいラニナミビルが年齢の大きい人にとっては今後の治療の主流になるかもしれませんが、オセタミビルと同じプロドラッグであるため、効果の発現にはやや時間がかかる、との報告もあります。そういう意味ではザナミビルが一番効果の発現が早いようです。

今シーズンのインフルエンザの流行状況はどうでしょうか?今すでに流行の開始時期を迎えた沖縄では、分離されたウイルスはすべてAH3亜型(香港型)ということです。もうAH1(2009)型にかかる方は少ないのでしょうか?B型も流行の都市ではないし、おそらく小流行に留まるのかもしれません。

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