ニューキノロン系抗菌剤(NQ剤)(12/2/13更新)

[抗生物質と抗菌剤と抗菌薬について]
抗生物質とは:微生物が産生し、ほかの微生物の増殖を抑制する物質の総称
抗菌剤(合成抗菌剤):
ピリドンカルボン酸系(キノロン系、ニューキノロン系)やサルファ剤など、完全に人工的に合成された抗菌性物質。
一般のセフェム系やペニシリン系薬あるいはマクロライド系薬とは全く異なる作用機序であるので、これらに耐性を示す菌にも有効性が期待できます。また、キノロンは好中球やマクロファージでの細胞内移行性がきわめて高いので、細胞内寄生菌であるクラミジアなどでも優れた有効性が期待できます。
キノロン系薬の抗菌作用は、濃度依存的により強く発現されるので、β-ラクタム系薬やマクロライド系薬のように、より長い時間一定の薬物濃度を菌に接触させることで殺菌性を増す時間依存性ではなく、短時間でもより高い濃度で菌と接触させることによって殺菌性が高められます。

抗生物質とは本来、微生物の産生物に由来する抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、そして抗がん剤のことを言います。その大半が抗菌薬(細菌に対して効果がある)です。現在、感染症を専門とする研究機関・医療機関では「抗生物質」という名称はあまり用いられず、それぞれ「抗菌薬」・「抗ウイルス薬」・「抗真菌薬」・「抗寄生虫薬」と言う名称が用いられています。
一般的に使われている名称の抗生物質と合成抗菌剤をあわせて、広義の抗菌薬と呼びます。

[合成抗菌剤]
細菌のDNA複製に不可欠な酵素であるDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼの活性を阻害することにより,濃度依存性の殺菌活性を示します。
抗菌スペクトルおよび薬理により2つのグループに分けられます
1)キノロン系(古いグループ):
 ナリジクス酸(NA ウィントマイロンR)
 ピロミド酸(PA パナシッドR)
 ピペミド酸(PPA ドルコールR)
 抗菌作用の幅の狭さから今はあまり使用されていません。
2)ニューキノロン系(新しいグループ):
 第3世代キノロン フルオロキノロン FQs
 ノルフロキサシン(NFLX バクシダールR)
 エノキサシン(ENX フルマークR)
 オフロキサシン(OFLX タリビッドR)
 シプロフロキサシン(CPFX シプロキサンR)
 トスフロキサシン(TFLX オゼックス・トスキサシンR)
 ロメフロキサシン(LFLX バレオンR・ロメバクトR)
 レボフロキサシン(LVFX クラビットR) 
 第4世代キノロン エイトメトキシキノロン EMQ 
 スパルフロキサシン(SPFX スパラR)
 ガチフロキサシン(GFLX ガチフロR 2008年販売中止)
 モキシフロキサシン(MFLX アベロックスR)
 ガレノキサシン(GRNX ジェニナックR)
 シタフロキサシン(STFX グレースビットR)
今は抗菌剤と言えば、抗菌作用の幅の広がったニューキノロン系抗菌剤のことを指している、と考えてください。

[子どもと抗菌剤]
開発時の前臨床試験において幼弱動物への関節障害が認められたことが理由となって、多くのニューキノロン系抗菌剤(NQ剤)の小児への適応は認められておらず、その使用には現在大きな制限があります。
ノルフロキサシン(NFLX バクシダール)は2002年3月,世界で初めて小児への適応が承認されました。承認に至った根拠は
(1) 各種キノロン薬の中でNFLXが幼弱動物に関節障害を最も起こしにくかったこと
(2) NFLXは高用量では幼弱動物に関節障害を起こすが,その濃度は小児のNFLX経口投与時の血中濃度の10倍以上であったこと
(3) 動物実験でNFLXより関節障害を起こしやすいナリジクス酸が、本邦で昭和39年から小児に使用されているが関節障害の報告はないこと
(4) 小児におけるNFLXの臨床治験406例において関節障害は認められず、関節障害を示唆する臨床検査値の異常も認められなかったこと  
からです。

米国FDAは2004年3月、第一次選択ではないことを明記しつつ大腸菌による複雑性尿路感染症および腎盂腎炎に対するシプロフロキサシン(CPFX シプロキサン)の小児適応を承認しました。
2009年12月11日、ニューキノロン系抗菌薬であるトスフロキサシントシル酸塩水和物の小児用製剤(商品名:オゼックス細粒小児用15%)が薬価収載され、10月16日に製造承認を取得しており、2010年1月12日から発売されました。小児の肺炎と中耳炎に適応を持つ日本で初めてのニューキノロン系薬剤であり、現時点では海外でも発売されていません。

日本で小児に対して使えるNQ剤はこの3つ、経口薬はバクシダールとオゼックスの2種類になります。

[小児科領域のNQ剤の位置づけ]
今回TFLX(オゼックス)に小児の保険適用が承認された背景には、主に3つの事柄が挙げられます。
1)小児の市中感染症における耐性菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、肺炎マイコプラズマなど)の増加 
2)緑膿菌や炭疽菌といった他の系統の経口抗菌薬が無効な菌に対する感染対策
3)小児の感染症に対する抗菌薬の選択肢を拡大したいという医療現場のニーズ

TFLX(オゼックス)が適応と考えられる症例
○軽症〜中等症で耐性菌感染が疑われる場合
○再発例、反復例、集団保育時、前投与無効例
○他剤無効で注射剤の投与を考慮する場合

出来るだけ温存しておきたい抗菌薬のひとつ。いわば最後の切り札的存在

一般的な小児科開業医の立場では、重い細菌性の肺炎にお目にかかることは今ではもうあまりないと思います。
私たちもほとんど抗生物質は処方しなくなりました。ところが耳鼻科領域では治らない中耳炎が非常に多いです。抗生物質を処方され続けても、中耳炎を繰り返し、常に耳漏があるお子さん。膿性鼻汁の取れないお子さん。滲出性中耳炎で水のなくならないお子さん。こういった方たちに、耳鼻科の先生方は延々と抗生物質を処方されますので、最後の切り札どころか、第1選択薬に近い状態で処方される先生が近隣におられます。中耳炎が怖いのは、そこから菌血症、髄膜炎を起こすからでありますが…。その為に、Hibや肺炎球菌の予防接種が必要になって、打たれるようになってきていると思うのですが!
延々と抗生物質を処方されている子どもさんたちを見ていると、ワクチンも打っているし、ちょっと抗生物質の使用はやめて考えてみても良いんでは?と思ったりします。2歳ごろになると、中耳炎にもあまりかからなくなりますし…。
ただ、保育園に行っていると、治って保育園に行けばまた感染して、ハナがでて中耳炎になって、ワクチンも間に合わなくて(接種開始が遅かった)入院を繰り返し、結局辞めざるを得なくなった方もありますが…。熱が出た時にはまず採血をして、白血球数が増えず、CRPの値も高くなければ抗生物質は処方しない、という対応をしていました。今ではあまり風邪もひかれなくなりました。

耳をみて中耳炎がないのに、何故抗生物質を処方するのかなぁという疑問。鼓膜の動きが悪い例、滲出性中耳炎のお子さんに抗生物質を出す不思議。風邪と同じく、中耳炎もウイルスが原因で、抗生物質は要らない例は多いと思うのですが…。こういう使われ方をされたら、最後の切り札もアッという間に耐性菌が多くなるのでしょうね…。

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