甲状腺がん(11/5/30更新)

[甲状腺がんとは]
甲状腺に発生する癌腫。甲状腺がんには他のがんと比べていくつかの特徴があげられます。
まず、性別ですが男女比が1:5と圧倒的に女性に多いのが特徴です。次に、年齢層ですが、若年者から高齢者まで広い年齢層に分布し、20歳台やあるいはもっと若年者でもさほど珍しくありません。また、未分化がんを除き、一般に進行が遅く治りやすいがんであるのも大きな特徴でしょう。特に若年者のがん(乳頭がんというタイプが多い)でたちがいいのも一般のがんの常識とかけはなれています。 乳がんなど多くのがんではリンパ節転移の程度などがんの進行程度により治癒率が大きく左右されますが、甲状腺がんの場合後述する組織型(顕微鏡検査での分類)が最も運命を左右する因子です。 甲状腺がんのうち1%程度を占める髄様がんというタイプのがんは遺伝性のことがあり、また副腎や副甲状腺の病気を伴うことがありますので治療にあたって特別な配慮が必要になります。
問題になっている子どもの甲状腺がんはもっとも予後の良い乳頭がんです。

[種類]

[原因]
甲状腺癌の原因は、現在でもはっきりとはわかっていませんが、遺伝によるもの・ヨード(ヨウ素)の過剰摂取と言われています。他には喫煙が原因になる事もあります。
近親者の中で内分泌系に2つ以上の癌を発生した者がいる場合に甲状腺癌になる確率が高いです。 もともと甲状腺の病気には遺伝が危険因子と考えられるものが多く、バセドウ病などの甲状腺の病気もやはり近親者が同様に病気になっていることが多いです。
甲状腺が分泌をするためにはヨードが必要なのですが、過剰摂取したことが甲状腺癌の原因になっているという報告があります。今放射性物質で問題になっているのは、放射性ヨウ素131で、これを大量に体に取り込んでしまうことにより、甲状腺に集まって甲状腺の組織が癌化してしまう、というものです。集積した放射性ヨウ素は、新陳代謝で排出されるまで甲状腺内に留まります。その間中、甲状腺は被曝しつづけます。1986年のチェルノブイリ原発事故時に放出されたヨウ素131は、周辺地域に落下し、牧草に付着しました。汚染した牧草を食べた乳牛からしぼったミルクを飲んだ人々が、ヨウ素131を摂取したと考えられています。ヨウ素131は甲状腺に取り込まれ、そこから出た放射線が甲状腺がんを引き起こしました。チェルノブイリ原発事故後、甲状腺がんの発症は86年には年間19人でしたが2009年には同592人。発症者は20年以上、潜伏期間の関係か毎年増え続けています。広島、長崎の原爆被曝の調査などから甲状腺がんの発生は、被ばく時の年齢が20歳までは、被曝した放射線量に応じて増加するということです。20歳以上では、発生は極めて低く、40歳以上では、発生リスクは消失。20歳以下でも特に5歳未満では、10〜14歳に較べ約5倍の発生リスクがありました。若年時に被曝した者の甲状腺がんの発生は、被ばく後5〜9年で増加し、15〜19年で最大となり、40年後でも可能性がのこるかも知れないとのことでした。チェルノブイリでは、広島原爆数百個分と言われる、きわめて大量の放射性物質が放出されました。子どもたちが摂取したヨウ素131の量は、残念ながらわかりませんが、かなり多い量であったと推測されます。チェルノブイリは内陸部で、日常からヨウ素不足の状態であるということが挙げられます。この地域ではヨウ素不足が原因の甲状腺腫という、日本ではあまりみられない病気の多発地帯です。ヨウ素不足の甲状腺は、ヨウ素131をより多く取り込もうとします。福島原発の事故は一時的に放出されたヨウ素131の量はチェルノブイリ原発事故時の1/10と言われています。ジワジワと放出されて積り積った量はどのくらいになるのかは不明ですが…。ヨウ素131の半減期は8日なので、半年後には消滅するだろうと言われています。

[症状]
甲状腺がんの症状は通常前頚部にしこりを触れるだけです。長年放置して大きなしこりとなると目でみただけでわかるサイズになりますし、また周囲臓器への圧迫症状を呈することもあります。ただ、前頚部のしこりで甲状腺の腫瘍と判明してもそのすべてががんではなく、良性のもの(腺腫、腺腫様甲状腺腫など)とがんとの比率は約5:1です。また、まれに声が嗄れたり、頚部のリンパ節転移などを契機に甲状腺がんが発見されることもあります。また、何らかの理由によりとった胸部CT検査で偶然甲状腺腫瘍が発見され、精査の結果がんがみつかることもありえます。 ただし、以上のことは甲状腺分化がんの場合であって、未分化がんでは急激な増大、痛み、息苦しさなど多彩な症状を呈します。

[治療]
甲状腺がんの手術
乳頭がん、濾胞がん、髄様がんはすべて手術の対象となります。病変の広がりにより甲状腺を全部取る(甲状腺全摘術)、大部分取る(甲状腺亜全摘術)、左右いずれか半分を取る(片葉切除術)など切除範囲にバリエーションがあります。頚部のリンパ節は原則として切除(郭清)しますが、その範囲もがんの進み具合により判断されます。きわめて微小な分化がんではリンパ節郭清を省略しうる場合もあります。 遠隔臓器に転移をきたした分化がん(ことに濾胞がん)では甲状腺全摘後、ラジオアイソトープを投与が行われます。分化がんに対する有効な化学療法(抗がん剤治療)はありません。 一方、甲状腺未分化がんに対しては、手術よりも放射線療法と化学療法が中心的な治療となります。
甲状腺がん手術の合併症
甲状腺の手術に特徴的な合併症としては、反回神経麻痺、副甲状腺機能低下などがありえます。反回神経麻痺(片方)では声が嗄れる、水分を飲むとむせる、などの症状がでます。したがって、この神経ががんに巻き込まれているとかよほど特殊な状況にないかぎり反回神経は残します。また、副甲状腺4個のうちいくつかは切除されることが多いのですが、3個以上の摘出では血液中のカルシウムが低下し、指先や口の周囲のしびれ(テタニーと呼びます)がおこることがあります。テタニーがおこればカルシウム剤の補充を行います。
甲状腺がん術後の投薬
甲状腺全摘術や大部分を切除した場合には、残った甲状腺が十分な甲状腺ホルモンを作れないので、チラージンSという甲状腺ホルモン剤を服用する必要があります。ただ、ホルモン剤といっても本来身体に不足している分を補うだけのことですので、副作用の心配はまったくいりません。また、甲状腺全摘術などで副甲状腺の機能低下がおこり血清のカルシウム値が低下している場合にはカルシウム製剤や活性化ビタミンD3を服用する必要があります。
甲状腺がんの治療成績
未分化がんを除き甲状腺がんの予後は良好です。特に、大部分をしめる乳頭がんでは術後10年生存率が90%を越えますのでがんのうちでも最も治りやすい部類に属します。濾胞がんもこれに準ずる高い治療成績が得られます。髄様がんは分化がんに比べるとやや不良ですが、それでも一般のがんにくらべると予後は良好です。ただ、未分化がんの治療成績はきわめて悪く今後の研究課題です。

甲状腺がん、というと皆さん非常に不安になられるかもわかりませんが、最初に飛散した量が多くない為、初期に汚染された野菜、牛乳を飲み続けたりしない限りは、甲状腺がんになる確率が増える可能性は低いのではないか、と思われます。甲状腺がんに関しては今から5年後に統計上の変化が起こってくるでしょうか?今土壌や、海底の土で検出されている放射性物質はセシウム137であり、この物質に関しては、今のところ人体への影響に関してのはっきりしたデータがありません。許容量が引き上げられているのに対し、現地では大きな不安、不満の声が挙げられています。又もっと遠い将来に何らか全く別の形で影響が表われてくるのでしょうか?
原子力発電は人間の作った負の遺産であるかもなので、事故をきっかけに、他のエネルギー開発への動きが見られだした事は明るい兆しであると思います。

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