ジカウイルス感染症(ジカ熱)(2016/2/22更新)

[ジカウイルス感染症とは]
ヤブカ(Aedes)属の蚊によって媒介されるジカウイルスによる感染症。軽度の発熱、発疹、結膜炎、筋肉痛、関節痛、倦怠感、頭痛などが主な症状です。ジカウイルスは母体から胎児への垂直感染を起こすことがあり(先天性ジカウイルス感染症)、小頭症などの先天性障害を起こす可能性があるとされています。
ジカウイルスはデングウイルスと同じフラビウイルス科に属しています。1947年にウガンダのZika forest(ジカ森林)のアカゲザルから初めて分離され、ヒトからは1968年にナイジェリアで行われた研究の中で分離されました。ジカ熱は、2007年にはミクロネシア連邦のヤップ島での流行、2013年にはフランス領ポリネシアで約1万人の感染が報告され、2014年にはチリのイースター島、2015年にはブラジルおよびコロンビアを含む南アメリカ大陸での流行が発生しました。WHOによると、2015年以降2016年第2週までに、中央および南アメリカ大陸、カリブ海地域では20の国や地域(バルバドス、ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、エルサルバドル、フランス領ギアナ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、マルティニーク、メキシコ、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、セント・マーティン島、スリナム、ベネズエラ)から症例が報告されています。日本への最初の輸入症例は2014年フランス領ポリネシアでの感染症例で今までに3例見つかっています。

[感染経路]
ジカウイルスを持った蚊がヒトを吸血することで感染します(蚊媒介性)。基本的に、感染したヒトから他のヒトに直接感染するような病気で はありませんが、稀なケースとして、輸血や性行為による感染が指摘されています。また、感染して全員が発症するわけではなく、症状がないか、症状が軽いため気付かないこともあります。
妊娠中の女性が感染すると胎児に感染する可能性が指摘されていますが、その感染機序や感染時期はわかっていません。
日本にいるヤブカ属のネッタイシマカやヒトスジシマカが、ウイルスを媒介することが確認されています。ネッタイシマカは、日本には常在していませんが、ヒトスジシマカは、日本のほとんどの地域(秋田県および岩手県以南)でみられます。

[発生地域]
アフリカ、中央・南アメリカ、アジア太平洋地域で発生があります。特に、近年は中南米及びその周辺地域で流行しています。
米国CDC報告の発生地域(2016年2月18日現在)
○中南米・カリブ海地域
アルバ、バルバドス、ボリビア、ボネール、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、キュラソー島、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、仏領ギアナ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、ジャマイカ、マルティニーク、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、セント・マーティン島、スリナム、米領バージン諸島、ベネズエラ
○オセアニア太平洋諸島
米領サモア、サモア、トンガ
○アフリカ
カーボベルデ

[症状]
ジカウイルス感染症の潜伏期間(接触から発症までの時間)は明らかではありませんが、数日のようです。
主として軽度の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、斑丘疹、結膜炎、疲労感、倦怠感などを呈します。これらの症状は軽く、 2 〜 7 日続いて治まります。血小板減少などが認められることもありますが、他の蚊媒介感染症であるデング熱やチクングニア熱より軽症と言われていま す。また、ジカウイルス感染と胎児の小頭症との関連やギラン・バレー症候群の発症との関連について疑われており、調査が行われています。

[ジカウイルス感染症に潜在する合併症]
2013年にフランス領ポリネシアで、2015年にブラジルで、それぞれに大規模な感染流行が発生した時に、国家保健当局がジカウイルス感染症に潜在する神経学的合併症および自己免疫合併症を報告しました。最近、ブラジルでは、地方の保健当局が一般住民の中でジカウイルスへの感染に一致してギラン・バレー症候群患者の増加を確認しているだけでなく、ブラジル北東部では小頭症出産児の増加を確認しました。
ジカウイルス感染症の発生を調査する政府機関は、ジカウイルスと小頭症の間に関連する証拠がどんどん増えていることを認識しています。しかし、出産児の小頭症とジカウイルスとの関係がさらに解明されるまでには、さらに多くの調査が必要です。他の原因の可能性も調査されています。妊娠中のジカウイルス感染と小頭症との関連についてより詳細な調査結果が得られるまでは、流行国地域への妊婦の方の渡航を控えるよう警告し、 妊娠予定の女性に対しても主治医と相談の上で、厳密な防蚊対策を推奨しています。

[診断]
ジカウイルスへの感染は、症状と最近の生活状況(例えば、ジカウイルスの存在が知られている地域での居住や地域への渡航)を基に疑います。
特異的な臨床症状・検査所見が乏しいことから、診断のための検査は、血液または尿からのウイルス分離または PCR 法による病原体遺伝子の検出により行います。血清学的検査による診断は、IgM抗体または中和試験による抗体の検出により行います。

[治療]
ジカウイルス感染症は、通常は比較的症状が軽く、特別な治療を必要としません。ジカウイルスに罹った人は、十分な休養と、十分な水分を取れば、市販の鎮痛解熱薬で対処できます。症状が悪化したときには、医療機関に受診してください。

[予防]
現在、適応できるワクチンはありません。
海外の流行地にでかける際は、蚊に刺されないように注意しましょう。長袖、長ズボンの着用が推奨されます。また蚊の忌避剤なども現地では利用されています。
日本にはジカウイルス感染症の媒介蚊であるヒトスジシマカが日本のほとんどの地域(秋田県および岩手県以南)に生息しています。このことから、仮に流行地でウイルスに感染した発症期の人(日本人帰国者ないしは外国人旅行者)が国内で蚊にさされ、その蚊がたまたま他者を吸血した場合に、感染する可能性は低いながらもあり得ます。ただし、仮にそのようなことが起きたとしても、その蚊は冬を越えて生息できず、限定された場所での一過性の感染と考えられます。なお、ヒトスジシマカは、日中、野外での活動性が高く、活動範囲は50〜100メートル程度です。国内の活動時期は概ね5月中旬〜10月下旬頃までです。日本でジカウイルス感染症が発生する可能性はほとんどないと思われます。

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