吸入ステロイド剤(2015/4/13更新)

[吸入ステロイド剤の役割]
喘息の治療として、毎日の長期管理薬の投与は大変重要です。 吸入ステロイド剤は直接気道に到達して炎症を抑制し、気道の炎症を緩和することで肺機能や気道過敏性を改善します。 日常生活も安定し、行動の制限も少なくなり、普通の生活ができるようになります。 ステロイド剤による副作用を心配されている方も多いのですが、吸入ステロイド剤は全身的な影響が比較的少ないことから、 喘息における予防治療では重要な役割を担っています。 現在、吸入ステロイド剤は炎症を抑える効果が最も信頼されています。

[安全性と副作用]
飲み薬の経口ステロイド剤は長期間使い続けると副作用が問題になりますが、吸入ステロイド剤はかなり大量に使わない限り、副作用は極めて少ない薬です。 しかしながらまったくないわけではありません。吸入薬として使用することで、口の中やのどへの影響が考えられます。声のかれや口腔内カンジダ症(カビ)、咳などが起こる可能性があります。これはうがいの励行や薬剤の吸入方法・剤型の変更によって予防できる場合もあります。
また全身性の副作用では、通常の使用量であればおおむね問題がないとする報告が多くされています。 身長発達については、使用開始後の1年間でおおむね1cm程度の抑制が生じる可能性が示されていますが、 その後の身長の低下には減少がみられ、10年後には健常者と同じ身長に達しています。

[種類と特徴]
現在日本で使用されている吸入ステロイド薬は、5種類あります。
また、吸入ステロイド薬に長時間作用性β2刺激薬を配合した配合剤が2種類あります。

最近はフルタイド、パルミコート、アズマネックスなどのドライパウダー製剤が主流になりつつあります。一方、エアゾール製剤で超微粒子のキュバール、オルベスコなどの末梢気道炎症改善効果が着目され、期待がもたれています。
噴射速度の速いフルタイドエアゾール、アドエアエアゾールはスペーサーを使って吸入するのが原則ですが、噴射速度がマイルドなキュバール、オルベスコはそのまま吸入(オープンマウスまたはクローズドマウス)するか、デュオペーサーあるいは専用吸入補助器具を使って吸入します。
フルタイドロタディスクはディスクヘラーという吸入器具に薬(ディスク:1枚4回分)を装着して吸入しますが、フルタイドディスカスは薬が60回分内臓されているディスカスという吸入器具で吸入します。
パルミコート、シムビコートにはタービュヘイラーという優れた吸入器具が内蔵されています。
アズマネックスは非常に操作が簡単なツイストヘラーが採用されています。
パルミコート吸入液はネブライザーを使用して吸入します。
エアゾール製剤は地球の温暖化で問題となっているHFAフロンが使われていることもあり、世界的にはフロンが使われていないドライパウダー製剤が吸入薬の主流になりつつあるようです。しかし、エアゾール製剤でl粒子の小さいキュバール、オルベスコには末梢気道炎症の改善効果がありますし、エアゾール製剤は吸う力の弱い患者さんでも吸うことができますので、エアゾール製剤も捨てがたい利便性があります。
キュバール、オルベスコは代替フロン(HFA-134a)が使われ、無水エタノールが添加剤として含まれています。フルタイドエアゾールも代替フロン(HFA-134a)が使われていますが、無水エタノールは含まれていません。
また、ドライパウダーのフルタイドロタディスク、フルタイドディスカス、アドエアディスカス、アズマネックス、シンビコートには乳糖が添加剤として使われていますが(アズマネックス、シムビコートに含まれる乳糖の量は微量でフルタイドロタディスク、フルタイドディスカ、アドエアディスカスに比較して少ない)、パルミコートには添加剤が含まれていません。
アドエアはフルタイドとセレベント(長時間作用性吸入β2刺激薬:単剤としての発売あり)の配合剤で、わが国ではアドエアディスカスが2007年6月に発売されました。アドエアのエアゾール製剤は、アドエア50エアゾールが2009年4月に発売され、2010年4月23日にはアドエアエアゾールの125、250が発売されました。
また、パルミコートとホルモテロール(長時間作用性吸入β2刺激薬:単剤としての発売なし)の配合剤でドライパウダー製剤のシムビコートが2010年1月13日にが発売されました。

2013年、フルチカゾン/ホルモテロール(pMD)、フルチカゾンフランカルポン酸エステル/新しい長時間作用性吸入β2刺激薬ビランテロール(ドライパウダー:1日1回)が製造販売が承認になりレルベアという名で発売されました。

[治療開始のタイミング]
長期管理では、発作の程度と頻度から判定される「重症度」に応じて治療薬が選択されますが、小児の場合、軽症持続型(症状が月に数回程度)であれば、2歳未満の乳児では吸入ステロイド薬の使用が考慮され、2歳以上では基本治療薬として位置づけられています。また、成人(15歳以上)では、軽症間欠型(症状が週に1回未満)のうちから吸入ステロイド薬が第一選択薬になっています。

[治療のゴール]
喘息治療のゴールは、発作のときの症状をしずめることではありません。
「発作がおこらないようになり、健康な人と変わらない生活を送ること」。これが喘息治療の目標です。
・健康な人と変わらない生活が送れる
(仕事、家事、学校を休まないなど)
・外出や運動ができる
・夜や早朝に症状がなく、よく眠れる
・昼間の症状(発作)がない
・症状(発作)のために受診することがない
・薬の副作用がない

残念ながら現在のところ、喘息を元から治し二度と症状がおこらなくできる薬はありません。
しかし、近年開発された優れた治療薬を継続して使用することで、喘息治療のゴー ルである「発作がおこらない状態を長期間続けること」ができます。
発作がおこらない状態を長期間続けるためには、喘息の原因である炎症を抑える治療を毎日続けることが重要です。炎症の治療を行うと、徐々に咳が出なくなり、夜よく眠れるようになりますが、少しよくなったからといってすぐに薬をやめてはいけません。気道の炎症が再び悪化し、またすぐに発作がおきてしまいます。
自分の判断で薬をやめずに、医師の指示に従ってきちんと治療を続けましょう。

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