感染症迅速検査(検査キット)その1(12/11/12更新)

[検査の原理]
ウイルス感染の確定診断は、ウイルスの分離が基本となります(溶連菌は細菌の分離です)。しかし、ウイルス分離は当日に結果を得る事はできないので臨床には利用できません。ペア血清による抗体価の上昇は、発症後2週間以上経過した血清を用いるので臨床に利用されることはありません。最近ではウイルスの遺伝子を検出するRT-PCR法を用いた診断も行なわれるようになり、この検査では結果がその日に得ることも可能ですが、設備や手間および費用の問題から日常臨床での使用には向いていません。
そこで最近は診療所等の臨床の場では操作が簡単で判定時間が短いイムノクロマトグラフィーを原理とした迅速診断キットが主流になっています。
抗原抗体反応を利用した免疫法によるものです。判定部には、それぞれのウイルス核タンパクに対する抗体がライン状に塗布されています。この抗体は、それぞれ特別な抗原以外のものとは反応しないことが確認されています。検体に含まれるウイルスの抗原が、判定部の抗体と結合すると、試薬の発色成分によって、青色や赤紫色に見えるしくみです。
反応の場(メンブレン)に検体が毛細管現象によってしみていく方式による免疫法の検査を「イムノクロマトグラフィー法」といい、わが国で医薬品として承認されている検査キットはほぼこのタイプです。
発色させる方法は製品で異なり、酵素免疫測定法(抗体を酵素で標識し、基質と反応させて発色させるもの)、金コロイド法(抗体に着色粒子として金コロイドを結合させたもの)などが用いられています。

■インフルエンザ検査キット
[感度]
迅速診断キットの感度とは、ウイルス分離やRT-PCRで陽性と確認された検体が、迅速診断キットで測定した場合何%陽性になるかを示す指標です。
一般的に性別を問わず、ウイルス培養の結果と比較した感度は90%以上と言われています。
  1. 小児と大人を比べた場合、小児の感度が高い
  2. 鼻腔吸引液>鼻腔スワブ>咽頭スワブの順に感度が高い
  3. 発症からの時間が短いと感度が下がる
これらは検体に含まれるウイルスの量と関連しています。発症早期ではウイルスの量が、迅速診断キットで検出できるところまで増えていないことが考えられます。小児では発症後6時間までの感度は、A型で64.3%、B型で71.4%であったが、発症後7時間から12時間では、A型で90.6%、B型では83.3%と報告されており、他の報告でも同様な成績が得られています。

[特異度]
ウイルス分離やRT-PCRで陰性と確認された検体で、迅速診断キットで測定した場合何%一致するかを示す指標です。一般的には、90%以上と考えられています。
迅速診断キットの普及の初期の段階で一部のキットで偽陽性が多いことが問題にされましたが、現在改良ならびに品質管理が進んだため問題とはなっていません。

[診断に必要な時間]
検査キットの種類によってかなり違いがあります。添付文書上には10分と記載されているものでも、実際に陽性の判定はもっと早くできることが多いです。ウイルスの量が多いと、検体を入れて流れたとたん、ほんの数秒で出る場合もあります。ウイルスの量が少ないとやはり必要な時間は待たないと結果が得られません。テストデバイスがカセット方式で、検体を滴下する方法のものは結果が早く出ますが、スティックタイプで吸い上げる方法のキットは全体的に反応に時間がかかります。

[陰性の場合の対応]
これまでのデータから迅速診断キットが陰性の場合も、キットの感度は100%ではないためインフルエンザを100%否定は出来ません。クラスで流行していたり、友人家族が感染している場合は抗インフルエンザ薬が必要になると思われます。しかし、一般的にはインフルエンザ以外の原因も考えないといけません。冬季に於いてインフルエンザと類似した症状を呈す疾患としては、ヒトメタニューモウイルスやアデノウイルスなどが多いことが報告されています。これらも検査キットはあり、しても対処の方法はないのですが、陽性の場合は診断が確定されます。


■溶連菌感染症

[感度と特異度]
メーカーによって差はありますが、当院が使っている検査キットは以下の報告です。

表

[診断に必要な時間]
上述のカセットによるキットではありませんので、検体を吸い上げるのに時間がかかりますのでやはり10分は必要です。がしかし、これも検体量が多いとコントロールラインが出るまでに陽性のラインが出ますので、5分で陽性の判定ができることもあります。

[陰性の場合の対応]
感度はかなり良い、とのことですが、溶連菌を疑っても陽性に出ない場合もあります。可能性が否定できない場合は短期間でも抗生物質を処方することもあります。逆にどうかな、という状況で陽性に出る場合も多いのですが、結果次第で抗生物質を長期間処方するかどうか、治療が変わりますので全体の状況で判断する必要があります。


以上、この2つの検査は、結果を得ることによって治療が変わるものですので、当院でも非常によく検査を行っています。特にインフルエンザについては、A型、B型の判定をして、流行の状況がとらえられますし、感染歴を残していくと今後近いうちに感染するかしないかも予測できるので、個人的には非常に有用なものだと思っています。ただ陽性かどうか、検査時間や鼻汁の量によって結果が左右されるのが難点ですが‥。鼻汁の少ない場合は、非常に痛い検査でもあります。
溶連菌感染症は独特の咽頭所見があれば、検査しないでも良いぐらいではありますが、一応確定のために検査をしています。この検査も咽頭の反射の強いお子さんにとっては、インフルエンザの鼻腔スワブ検査よりもイヤだ、という場合がありますので、典型的な場合はしないこともあります。逆にイチゴ舌と少しののどの違和感を訴えるだけで検査が陽性になる場合もあり、繰り返し抗生物質を処方しても検査が陽性になり、症状があまりない場合には、常在菌として存在することがあるので、投薬しない場合もあります。

そはれ以外の検が査については結果が分かったからと言って治療に差はありませんので、おいてはいるもののあまりよく使っていません。が、陽性になる場合は原因がはっきりわかって良いので、後のフォローがやりやすくはなります。必要以上の抗生物質の投与も減りますね。保育所で、やれ検査をしてもらってこい、と言われたり、出席停止がどうの…とか言われてしまうと、ちょっと閉口してしまうのですが。
マイコプラズマの検査キットは、抗体が上昇して陽性になるまで1週間ほどかかる、特異性があまりない、と言われていたので、当院では使用していなかったのですが、最近は非常に感度が良いタイプのものも出てきたようです。
これについては次回お話したいと思います。

copyright(c) Yamauchi Clinic. all right reseaved.