染色体異常(12/10/15更新)

[染色体とは]
細胞の核内にあり、細胞分裂の際に棒状の構造体として観察される遺伝情報の担い手で、塩基性色素に濃く染まるところから染色体の名がつきました。
人の細胞には46個の染色体があります。染色体は22組ある常染色体と1組ある性染色体に分けられます。2本ずつの染色体は片方 は父親から、もう片方は母親から由来します。

ヒトの染色体


[染色体異常とは]
先天的に染色体の数や構造に異常があり、そのためにいろいろな症状を示すものです。
数の異常には倍数性(ばいすうせい)と異数性(いすうせい)とがあります。倍数性は半数性の染色体23本の3セット以上をもつ異常で、3倍体(染色体数69本)や4倍体(染色体数92本)があります。これらは通常自然流産します。 異数性はある染色体が増減するような異常です。流産することが多く、出生に至るものは限られています。妊娠初期の流産の原因の60%以上は胎児側の染色体異常(せんしょくたいいじょう)の自然淘汰になります。
新生児200人に1人の割合でみられます。

[原因]
染色体の分離がうまくいかないと染色体数の多い、あるいは少ない精子や卵子がつくられ、それらが受精することにより染色体の数の異常が生じます。
不分離の原因はいろいろあげられていますが、母親の加齢に関係することがよく知られています。精子は、男性の精巣で常に新しく作られていくのですが、卵子は女性が胎児の時にできてから卵巣の中でずーっと待っていて、出てくる順番をまっています。女性が40年生きた中で、さまざまな環境汚染を浴びながら卵子と共に生きている状態なので、この間に染色体に異常が起こる確率が高くなります。
構造の異常は、精子や卵子がつくられる過程で染色体の切断や再結合が起こることによります。染色体の切断には、放射線やある種の化学物質などが関係するといわれています。精子では15%、卵子では20%が染色体の異常をもっています。

[症状の現れ方]
一般に常染色体(じょうせんしょくたい)異常症では、精神発達の遅れ、発育の障害、種々の奇形、とくに小奇形を伴う多発奇形がみられます。一方で性染色体(せいせんしょくたい)異常症では性腺発育障害が多くみられます。染色体の特定の領域には特定の遺伝子があるため、異常のある染色体領域と臨床症状の間には一定の関係があります。しかし、逆に同じ染色体異常症でも症状にはかなりの個人差がみられます。

[出生前診断]
●羊水染色体検査
妊娠16〜17週に行います。14週以下は羊水量・細胞濃度共に少ない為、培養に適しません。30週を超えると羊水中の死滅細胞が多くなるため、培養成功率が著しく低下します。
超音波断層法で胎児の位置、胎盤の位置を確認し、安全な部位から細い穿刺針を用いて羊水を吸引する羊水穿刺を行って検体を採取します。この際、皮膚の局所麻酔を施して痛みを軽減します。
安全性は、その他の出生前診断法である絨毛採取や臍帯穿刺よりも高いのですが、破水、感染、子宮収縮、出血、流産、切迫流産、早産、(腸管、膀胱、胎児など)周辺臓器の損傷があります。頻度は0.1〜0.3%といわれています。
*検査技術の限界
1.生体外の培養にともない胎児自身の染色体核型とは異なる核型が得られる場合があります。
2.羊水細胞中の生細胞の量が少ない場合や雑菌が混入している場合、血液が混入している場合は、検査結果が出ないことがあります。
3.羊水穿刺時に母体細胞の混入の可能性があります。この場合結果がモザイク様となることがあります。
4.多胎妊娠の場合、胎児の情報が区別できない場合があります。
5.微細な染色体構造異常、モザイク等については判定できない場合があります。
6.本検査は染色体異常の検索を目的とした検査であり、染色体異常以外の原因による先天異常については検索できません。
7.羊水量や胎盤の位置、胎児の位置によって安全性が疑われる場合、検査が行えないこともあります。
●血清マーカー検査・超音波検査
血液や超音波画像で調べられますが、ダウン症の可能性があるとことまでしかわかりません。
●DNA検査
妊婦の血液から、胎児のダウン症など三つの染色体異常がほぼ確実に分かるという新しい出生前診断。
妊娠10週から検査可能で、35歳以上の高齢妊婦などが対象になります。ダウン症の場合、99.1%の精度で検出できます。
新しい診断法は、妊婦の腹部に細い針を刺す「羊水穿刺」で羊水を採取する従来の方法に比べて安全にできますが、簡単な検査のため、異常が発見された際の人工妊娠中絶が大幅に増える懸念もあります。米国では昨年から実施されており、国内にも導入の動きがあったことなどから、日本産科婦人科学会は生命の尊厳を尊重したルール作りが必要と判断しています。専門医やカウンセラーなど体制が整備された医療機関で先行的に行い、検討する必要があるとしています。
臨床研究は、国立成育医療研究センター(東京)や昭和大(同)、名古屋市立大、北海道大などが、10月中にも実施するという事です。高齢出産や、以前に染色体異常の子どもを出産した妊婦などが対象で、費用は21万円。

[出生前診断検査を考える時]
1.御夫婦の両方あるいは片方が染色体異常の保因者である方
2.染色体異常児を分娩した既往のある方
3.高齢出産(出産時に35歳以上)の方 
4.妊娠初期超音波検査や母体血清マーカー検査で胎児染色体異常が疑われる場合
5.重篤なX連鎖遺伝病の保因者の方
6.重篤な先天代謝異常症の保因者の方
7.反復流産の既往のある方

出生前診断はいわば命の選別を行う、という事です。はたして検査を受けることが良いのか、悪いのか…。超音波検査で疑いがあると言われた場合に、検査を受けて、診断が確定した時にどういう選択をするのか。異常がなかった場合でもなにか心に残る気持ちがあるかもわかりません。
医学の進歩により、確実に、しかも侵襲も少なくできるようになることが、本当に喜ぶべきことなのかどうか、悩ましいところです。

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