先天性心疾患(12/7/9更新)

[先天性心疾患とは]
生まれながらにして心臓の形や機能に問題がある状態を先天性心疾患と呼びます。
心臓は四つの部屋からできています。それぞれの部屋の間には、血液が逆流しないようにするための弁があります。妊娠3週から8週にかけて胎児の心臓はできあがります。この発達の過程の途中で障害を受けると、左右の心房や心室の壁が十分にできずに孔が残ったりします。先天性心疾患は生まれてくる子供の約1%に認められ、生まれつきの病気としては大変頻度の高いものです。子供の心臓病は生まれつきの場合がほとんどと言われます。

[原因]
心臓は遺伝子に書かれた設計図に基づいて、できあがります。そのため赤ちゃんの遺伝子に少しでも異常があると、心臓は不完全な形となってしまいます。多くの先天性心疾患は、このような赤ちゃんの遺伝子の異常で起こると考えられています。他には先天感染(風疹(ふうしん)、コクサッキーウイルスなど)、環境因子(アルコール、薬剤、母体の糖尿病など)も原因となります。が、先天性心疾患の多くは原因が不明です。先天性心疾患に心臓以外の形態異常が合併することがありますが、その理由も不明です。

[種類]
もっとも多いのは心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)で、先天性心疾患の約37%を占めます。ついで、心房(しんぼう)中隔欠損が15%、肺動脈狭窄(はいどうみゃくきょうさく)が10%、ファロー四徴(しちょう)が9%、動脈管開存(どうみゃくかんかいぞん)が6%などの順になります。

心室中隔欠損症
心臓から血液が送られるポンプの役割を果たしている左右の心室の間に穴があいている病気です。生まれてすぐは、心臓の雑音はないことが多いのですが、1週間くらいすると聴診器で雑音が聞こえるようになります。小さい穴では1歳くらいまでに自然に閉じることがあります。
比較的大きな穴の場合、生まれて2〜3か月たつと、穴を通過する血液の量が増えて心臓に負担がかかり(心不全)、肺が水っぽくなります(肺うっ血)。そのため、赤ちゃんの呼吸は速くなり、ミルクが思うように飲めなくなり、体重が増えなくなります。こうした心不全や肺うっ血などの症状が重い場合や、肺の血管が傷んでいる兆候(肺高血圧)が検査でみられるときは、小児科で利尿剤や強心剤を出してもらい、心臓の動きを助け、肺の状態を改善するとともに1歳くらいまでに心臓外科手術を受ける必要があります。
たいていの場合、手術を無事に終えるとミルクがたくさん飲めるようになり、体重も増えて元気な体になります。学校生活や運動もほぼ普通通りできるようになります。
心室の壁の上の方に穴が空いている場合(漏斗部欠損)は、近くにある大動脈の弁が穴に吸い込まれて弁が逆流することがありますので、穴が小さくても手術が必要なことがあります。

心房中隔欠損症
左右心房の間にある心房中隔に穴があいている病気です。
欠損孔を通る血液の量および方向により症状が決定されます。血液量および方向は、欠損孔の大きさ、心房間の血圧差、左右心室のふくらみやすさの差により決定され、通常は左心房から右心房に向かって血液が流れます。その結果、右心房、右心室、肺に負担がかかり、心不全症状を認めることがあります。
新生児期、乳児期に発見されたもののなかには、数カ月から数年で自然に閉じることもあります。2〜3歳になっても閉じない場合は、自然に閉鎖することが期待できないことも多く、治療を考慮することになります。  
小児期にはほとんどは自覚症状を認めず、多くは健診で心雑音や心電図の異常を指摘され、初めて診断されます。まれに、繰り返す呼吸器感染症や体重増加不良をきっかけに診断されることもあります。成人以降は多呼吸、汗が多い、息切れといった心不全症状や不整脈が認められることが多くなります。このため、成人してから診断されることもまれではありません。
最近は太ももの血管から入れる管(カテーテル)で、心房中隔欠損を治療することが可能になりました。小学校中学年以上で、心房中隔の壁の真ん中に穴があいている患者さんの場合、この方法が可能です。穴が真ん中から大きくずれていたりすると、この方法では治すことができず、手術を受けなければなりません。
いずれにせよ治療後は学校生活や体育活動に支障はありません。

肺動脈狭窄症
肺動脈弁は右心室から肺に送られる血液が逆流するのを防いでいる弁です。生まれつきこの弁の開きが悪く、右心室が強い圧力をかけないと肺に十分血液を送れないのが、この病気です。
肺動脈狭窄が軽度の場合は、治療を必要とせず、経過観察のみでよいことが殆どです。中等度以上の狭窄がある場合、治療の対象になります。
治療としては、1)カテーテルによる治療、2)手術による治療の二つがあります。
肺動脈狭窄症の手術後の予後は一般的に非常に良好です。多くの場合、ほかの子どもたちと同様に生活していけると考えられます。ただし、残存する肺動脈の狭窄の程度によっては多少の運動制限が必要となる場合もあります。

ファロー四徴症
チアノ−ゼ性心疾患(酸素の足りない血液が全身にまわること)の代表的な病気です。専門的には、1)心室中隔欠損、2)肺動脈狭窄、3)大動脈右室騎乗、4)右室肥大の「四つ」を形態的な特徴とする病気です。
肺動脈狭窄の程度によってチアノ−ゼの出方はさまざまで、人によってはほとんどチアノ−ゼのでない場合もあります。また、「無酸素発作(スペル)」を頻回に起こすような時は、「ベータブロッカー」とよばれる種類の薬を内服して予防が必要なことがあります。
チアノーゼの進行がそれほどでもなければ、薬で病状の悪化を予防し、1歳前後に外科で根治手術(狭い右心室の出口を広げて心室中隔の大きな穴を閉じる手術)を行います。
右心室の出口が極端に狭い赤ちゃんは、強く泣いたり、排便で息んだり、熱を出したときにチアノーゼがひどくなり急変すること(低酸素発作)がありますので、生まれて1〜2か月頃に肺へ行く血液を増やす手術(鎖骨下動脈と肺動脈を人工血管でバイパスする手術)を行い、チアノーゼを軽くします。その後、1歳前後に同様に根治手術を行います。
手術後、チアノーゼはなくなって元気になります。多くのお子さんで学校生活や運動が可能ですが、中程度以上の肺動脈弁の狭窄や逆流が残っている場合は、激しい運動は控えた方がよいでしょう。
また、小児期には無症状であっても、成人期以降に右心室が弱ってきたり、不整脈が出たりすることがありますので、大人になっても定期検診が必要です。

動脈管開存症
「動脈管」とは、大動脈と肺動脈をつないでいる血管で、子宮の中にいるときにはみなこの血管があいていて、胎盤からもらった酸素の多い血液が下半身へ通っていきます。通常、うまれてまもなく閉じる仕組みになっているのですが、これがあいたままになっているのが動脈管開存症です。
管が小さなものでは症状はなく、自然に閉じることもあります。しかし太い動脈管開存で呼吸が早く体重が増えない場合には、利尿剤を処方したり外科手術で治療したりします。
症状が軽く、それほど太くない動脈管開存のお子さんは、2歳以降にカテーテル(コイル閉鎖)で治療することができます。いずれの場合も治療後は運動や学校生活に支障はありません。


先天性心疾患は上述のように決して少ない病気ではありません。生後すぐやしばらくたってから診断され、手術を受けて普通の生活をしている、というお子さんは沢山おられます。心室中隔欠損症は多いですが、自然にふさがることもまた多いので、1、2歳で心雑音の聞こえるお子さんは、心室中隔欠損症があります、と言われる方が結構あります。生活の制限もないし、お子さんの発育も全く問題はありません。
心房中隔欠損症や肺動脈狭窄症は、健診でも指摘されにくいくらいの心雑音、また発熱時などで初めて聴取されてが見つかることが多いです。いずれも手術は必要ではないほうが多いようです。

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