エルシニア感染症(12/6/18更新)

[原因]
エルシニアは腸内細菌科のエルシニア属に属するグラム陰性桿菌で、ヒトに対して病原性が確立しているのは、Yersinia pestis (ペスト菌)、Yersinia enterocolitica、Yersinia pseudotuberculosis などが属します。Yersinia pestis (ペスト菌)は有名なペストの病原体です。ペストは今は絶滅していますので、ここでは、食中毒の原因ともなるエルシニア(Yersinia enterocolitica、Yersinia pseudotuberculosis)についてお話しします。
エルシニア(Yersinia enterocolitica、Yersinia pseudotuberculosis)に汚染された飲食物を摂取することが、通常の感染経路です。殺菌が十分でないミルクや水からうつることもあります。また、感染した動物との接触や、感染動物の糞便との接触によりうつることもあります。

[症状]
摂取後、発病するまでの潜伏期は、1-10日です。
Y. enterocolitica 感染の臨床症状は多岐にわたり、下痢や腹痛をともなう発熱疾患から敗血症まで多彩です。
患者の年齢とこれら病像とはある程度相関がみられ、乳幼児では下痢症が主体であり、幼少児では回腸末端炎、虫垂炎、腸間膜リンパ節炎が多くなり、さらに年齢が高くなるにしたがって関節炎などが加わって、より複雑な様相を呈する傾向がみられます。発熱の割合は高いですが、高熱者は少ないです。
症状の中で最も多いのが腹痛で、特に右下腹部痛と嘔気・嘔吐から虫垂炎症状を呈する割合が高く、 虫垂炎、終末回腸炎、腸間膜リンパ節炎などと診断される場合もあります。腸管感染であるにもかかわらず、頭痛、咳、咽頭痛などの感冒様症状を伴う割合が比較的高く、また、発疹、紅斑、莓舌などの症状を示すこともあります。
Y. pseudotuberculosis による感染もまた乳幼児に多くみられ、発熱は殆ど必発であり、比較的軽度の下痢と腹痛、嘔吐などの腹部症状がこれに次ぎます。発疹、紅斑、咽頭炎もしばしば観察されます。さらに、頭痛、口唇の潮紅、莓舌、四肢指端の落屑、結膜充血、頚部リンパ節の腫大、肝機能異常、肝・脾の腫大、少数例には心冠動脈の拡張性変化のほか、二次的自己免疫的症状として、関節痛、腎不全、肺炎、および結節性紅斑などが見られることもある。このあたりの症状が川崎病と非常に似たものとなります。

[治療]
エルシニア以外の細菌性腸炎の時にも述べましたが、胃腸炎症状は抗菌薬を使用しなくても基本的には自然治癒に近い経過をとり、抗菌薬の使用に関しては、(1)腸内の正常細菌叢を抑制することで排菌が延長したり、(2)偽膜性腸炎などの抗菌薬関連下痢症の発症、(3)耐性化の問題があることが指摘されています。
川崎病の診断基準を満たす場合、アスピリンやガンマグロブリン大量療法を含めた治療管理が必要となりますが、エルシニア感染症を認めない川崎病に比較しその治療効果は低いとされています。
反応性関節炎に対しては、非ステロイド性抗炎症剤、関節内ステロイド、理学療法も行います。
その他、発熱、腹痛、下痢などに対しては、必要に応じて輸液などの対症療法を行います。

溶連菌の検査キットが普及する前には、検査会社に咽頭の細菌培養を依頼していましたが、その時にYersinia enterocoliticaが分離されたことがたまにありました。熱と発疹、下痢の症状のあるお子さんの中には、この菌が原因になっているものが含まれているのでしょう。川崎病?と思いながら熱がすぐ下がったりするお子さんも多かったので、ひょっとしたらこの菌が原因の感染症だったのかもわかりませんね。
今回のこれを書くきっかけとなったお子さんは非常に高い熱が続き、川崎病の診断基準をほぼ満たすようだったのですが、ガンマグロブリン大量療法では効果が無く、精査によって菌が検出されたとのことでした。
自然治癒が可能な感染症ですが、今後はこの菌が原因であることも視野にいれて診ていきたいと思います。

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