ポリオワクチン(12/3/5更新)

OPV(経口生ワクチン)とIPV(不活化ワクチン)の比較
 
OPV(経口生ワクチン)
IPV(不活化ワクチン)
腸管局所免疫
強力に獲得される(○)
獲得の期待は薄い(▲)
血清中和抗体
良好に上昇(○)
良好に上昇(○)
便からのワクチン株ウイルスの排泄
あり(▲)
なし(○)
ワクチン関連性まひ(VAPP)の発生
数百万接種に1例(▲)
なし(○)
ワクチン由来株の伝播(cVDPV)
あり(▲)
なし(○)
集団効果
あり(○)
なし(▲)
投与法
経口で簡便(○)
注射が必要(▲)
他のワクチンと混合製剤製造
期待薄い(▲)
可能(○)
価格
安価(○)
高価(▲)

長所に○、短所に▲   出典:日常診療に役立つ小児感染症マニュアル

日本では現在、経口生ポリオワクチン(OPV)が予防接種に使用されていますが、数百万分の1の確率で発生するワクチン関連麻痺(VAPP)が問題となっており、これを惹起しない不活化ポリオワクチン(IPV)への移行が必要とされています。(財)日本ポリオ研究所(日本ポリオ)が作ったセービン IPVは世界唯一の弱毒株を用いた不活化ポリオワクチンであり、現在欧米で使われている野生株を用いた不活化ポリオワクチンと同等の安全性と有効性を備えており、さらに製造工程での安全面に優れているためWHOからもその早期開発が求められています。
また、小児用予防ワクチンの普及にあたっては、注射回数を増やすことなく定期的に接種することができる混合ワクチンの開発が重要と考えられています。

単独不活化ポリオワクチン(IPV)の開発は、他の国にならって平成10年から臨床試験が実施され、平成13年には製造承認申請が行われたのですが、国内では平成14年からDPT(三種混合)と合わせた4種混合ワクチン開発の検討が開始され、平成17年に医薬品の臨床試験の実施基準上(データの不備等)の問題もあり、単独IPVの承認申請はポリオ研究所自身から取り下げられました。その後平成20年にやっと日本ポリオからセービン株IPV用たねウィルスの分与とその企業化にかかる権利の譲渡が行われ4種混合ワクチンの開発が始まりました。24年1月末までに、ようやく2社のメーカーから、不活化ポリオワクチンとジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオワクチンの4種混合ワクチンの薬事申請が出されました。そして、三種混合ワクチンを受けた人のために平成24年2月23日にIPV単独ワクチンの薬事申請をメーカーが行いました。 これはフランスのサノフィ・アベンティスの子会社サノフィパスツールで、1982年に不活化ワクチンを開発し、すでに世界91カ国で承認を受け、2億3000万本以上の接種実績があります。
この後できる限り迅速に薬事審査を実施、平成24年度中に4週混合ワクチン(DPT-IPV)の導入、単抗原IPVの導入を始めるということです。  

どうやら来年度中にはIPVが導入されるようですが、おそらく平成24年末になるということ、秋のOPV接種時には間に合いません。OPVからIPVへの切り替えは、おそらく他の国にならって3年くらいを目途にスケジュールが立てられると思われます。

申請されてから承認まで1年以内(おそらく間違いないと思いますが…)というのは他のワクチンに比べると異例の速さのように思えます。この空白?の1年にOPV接種者が激減することを厚生労働省は心配しています。
1972年(昭47)以後、日本国内には野生の強毒株ポリオウイルスは常在せず、ポリオの制圧に成功した状態を維持しています。DPTワクチン副反応の問題等から接種率が非常に下がった、昭和50年から52年ごろでもポリオは増えませんでした。1980(昭和55)年の1例を最後に現在まで、野生の(ワクチンによらない)ポリオウイルスによる新たな患者はありません。 今はOPVを受けるより受けないほうがポリオにならない!というのが現状です。日本では2回接種しかしていないにかかわらず、その後も輸入ポリオは今のところ発症していません。
ポリオは10年以上前から世界撲滅を目指していますが、達成はいまだになされていません。パキスタンやアフガニスタンなどの南西アジア、ナイジェリアなどのアフリカ諸国です。また、これらの国の患者からの感染により、タジキスタン、中国など他の国でも発生したという報告があります。ポリオウイルスに感染しても、麻痺などの症状が出ない場合が多いので、海外で感染したことに気がつかないまま帰国(あるいは入国)してしまう可能性があります。症状がなくても、感染した人の便にはポリオウイルスが排泄され、感染のもととなる可能性があります。 仮に、ポリオウイルスが日本国内に持ち込まれても、現在では、ほとんどの人が免疫を持っているので、大きな流行になることはないと考えられます。しかし、予防接種を受けない人が増え、免疫をもつ人の割合が減ると、持ち込まれたポリオウイルスは免疫のない人からない人へと感染し、ポリオの流行が起こる可能性が増加します。
…というのが、OPVを受けないといけない、という厚生労働省の言い分です。この1年間で、今までにほとんどなかったポリオの輸入がどれだけあるか、ですね。

今後、ポリオが絶滅するまでに弱いIPVの免疫力の上げるためには、IPV2回接種で免疫をつけておいてしばらくたってからOPVを受ける、というのが良いような気もします。これならVAPPも減るでしょう。絶滅してしまえばもちろんOPVは必要ありませんし、そのうち種痘のようにIPVすら要らなくなるでしょうが…。すこし前までは、ポリオの絶滅はすぐそこだ、と思っていましたが、どうやらまだまだ時間がかかりそうです。保護者の方には、いずれ子どもたちが大きくなったらポリオはなくなっていますよ、なんて話していたのですが…。
また麻疹の撲滅もまだまだのようです。

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