子宮頸癌ワクチン:サーバリックスとガーダシル(11/9/12更新)
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今回承認された「ガーダシル」と今すでに日本で使用されている「サーバリックス」との違いは、感染を予防できるHPV(ヒトパピローマウイルス)型の数が違うことです。「サーバリックス」はHPV 16, 18型の感染を予防できます。一方で「ガーダシル」はHPV 16, 18型に加えてHPV 6, 11型の感染も予防できます。が、HPV 6, 11型は『尖圭コンジローマ』や外陰部の良性腫瘍の原因となるウイルスで、子宮頸がんの原因となるタイプではありません。
『尖圭コンジローマ』とは、小児科には全く無縁で、殆どみなさんご存知ないでしょうし、個人的にもみた事もありませんが、性感染症の一種で、自覚症状は乏しいですが性器や肛門周囲にイボができる病気です。全国で4万人近くの患者がいるといわれており、一般に予後はよいが完治するまで長期となり、次々と再発するので治療しても根気が必要となってくるということです。
世界では、両方承認されている国がほとんどです。ガーダシルの方が認められたのが少し早いので、世界的なシェアでは圧倒的にガーダシルの方が多いです。ガーダシルがアメリカの製薬会社、サーバリックスがイギリスの製薬会社、という差もあるかもわかりません。
日本では同時に申請を出したという事ですが、なぜかサーバリックスの方が先に認可を受け、ガーダシルがやっと今年に入って認可され、9月中旬から無料接種の対象になるワクチンとしても使用できるようになりました。
副作用は、免疫活性を上げるためワクチンに混入されているアジュバントによる反応が主で,発熱,かゆみ,吐気,頭痛、接種部の痛み、軽い発赤・腫脹です。副反応を比べてみると、サーバリックスの方が少し痛みや腫れを訴える頻度が高いようですが、それだけでサーバリックスを接種しない理由にはなりません。サーバリックスは抗体価を高く持続させる特殊なアジュバント(AS04:アルミニウム塩とリン酸化脂質A を含む)を使い、31型・45型HPV に対しても感染予防効果が得られたことから、子宮癌の70%(日本では16_18_31_45が70%を占める)を予防できると期待されています。しかし、実際のところ現時点ではワクチンにより前癌病変は防御できても実際に子宮頸癌をどの程度予防できるかはまだ不明であるとも言われています。まだまだ歴史の浅いワクチンでもあります。従ってワクチンを受けるだけでなく、日本では受診率の低い子宮がん検診も積極的に受ける、という事が非常に大切です。
日本では“子宮頸がんワクチン”という名称で通っていますが、“子宮頸がんワクチン”という観点からはどちらも同等です。ガーダシルは子宮頸がんに加えて尖圭コンジローマをカバーしているということ。
そもそも、『子宮頸がんワクチン』という名称がよくないかもわかりません。『HPV2価(4価)ワクチン』とかいう方が誤解を招かない正しい表現になるかもわかりません。癌自体の予防ではなくその原因となるHPV の感染予防ワクチンであるということです。子宮癌の原因であるHPV の感染を地球規模で防ぐためにはできるだけ多くのヒトがワクチン接種を受ける必要があります。我が国の子宮頸癌におけるHPV型別頻度は欧米と一致しないので、将来は日本独自のワクチンの開発も望まれます。ウイルス粒子の構成蛋白L2は型特異性が低いことから型共通のワクチンとして開発することも考えられます。
HPV31 33 35 45 52 58 などを含む多価ワクチンも開発中で、数年先の事でしょうが、そういったワクチンが投与される時代になれば,30 歳頃にHPV試験 で検診を行い,HPV 陽性者だけを対象に細胞診での癌検診を行う時代が来ると予想する仮説もすでに発表されています。
両方承認されると出てくる問題は、HPV 16, 18型だけの二価ワクチン「サーバリックス」にするか、尖圭コンジローマも予防できる四価ワクチン「ガーダシル」にするかということになります。
接種はどちらかしかできませんので、ひとつを始めた途中で、他のワクチンに変更することはできません。
どちらのワクチンを選ぶかは、個人の自由です。
ただ、ガーダシルは今のところ数が少なく、充分には供給されない、ということです。当院でも2種類のワクチンを常に充分な数を置いておく、というのは非常に難しいので、9月15日以降、ガーダシルの接種を希望される方には、その時にワクチンの注文をする、という形を取りたいと思っています。
2つのワクチンの比較表がありますので、参考にしてください。
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サーバリックス |
ガーダシル |
発売日 |
2009.12.22 |
2011.8.26 |
メーカー |
GSK(グラクソ・スミスクライン) |
MSD(メルク・シャープ&ドーム) |
組
成 |
有
効
成
分 |
HPV(ヒトパピローマウイルス)
16型(発がん性ウイルス)
18型(発がん性ウイルス) |
HPV(ヒトパピローマウイルス)
16型(発がん性ウイルス)
18型(発がん性ウイルス)
6型(低リスクウイルス)
11型(低リスクウイルス) |
添
加
物 |
3‐脱アシル化‐4'‐モノホスホリルリピッドA |
アルミニウムヒドロキシホスフェイド硫酸塩 |
水酸化アルミニウム懸濁液 |
塩化ナトリウム(安定剤) |
塩化ナトリウム(等張化剤) |
L‐ヒスチジン塩酸塩水和物(緩衝剤) |
リン酸二水素ナトリウム |
ポリソルベート80(安定剤) |
PH調節剤 |
ホウ砂(緩衝剤) |
効能効果 |
HPV16及び18型感染に起因する
子宮頸癌(扁平上皮細胞癌、腺癌)および
その前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍)
の予防 |
HPV6,11,16,18型の感染に起因する以下の疾患の予防
・子宮頸癌(扁平上皮細胞癌、腺癌)および
その前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍)
並びに上皮内腺癌
・外陰上皮内腫瘍、並びに膣上皮内腫瘍
・尖圭コンジローマ |
対象者 |
10歳以上の女性 |
9歳以上の女性 |
接種方法 |
1回0.5mlを0、1、6ヶ月後に3回
上腕の三角筋部に筋肉内接種 |
1回0.5mlを0、2、6ヶ月後に3回
上腕三角筋、大腿部に筋肉内接種 |
※
副
作
用 |
全
身
反
応 |
発熱(5.6%) |
発熱(10%) |
嘔気(24.7%) |
嘔気(4%) |
頭痛(37.9%) |
寒気(3%) |
局
所
反
応 |
痛み(99%)
腫脹(88.2%)
発赤(78.8%)
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痛み(84%) |
腫脹(25%) |
発赤(25%) |
痒み(3%) |
※調査法は同一ではありません。
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