溶血性尿毒症症候群(11/5/16更新)

[溶血性尿毒症症候群とは]
溶血性尿毒症症候群は腎臓や脳などを侵す病気で、赤血球の破壊による貧血や、血小板という出血を防ぐ細胞の減少を引き起こしたり、急性腎不全(じんふぜん)になったりします。また脳に症状が現れて、けいれんや意識が損なわれることもあります。
溶血性尿毒症症候群(HUS)には3つの特徴があります。
■ 急性腎不全
腎臓の機能が低下するため、本来なら尿から排出される老廃物が血液中に残ってしまいます。名前の通り、尿の成分が体にとって毒になっているような尿毒症を起こします。
■ 血小板減少
様々な原因で血管に障害が起こり、血小板という血を止めるために大切な成分が血管に集まってしまいます。血小板が集まることで血が固まり、血栓ができてしまいます。血栓によって血小板が消費されてしまうことで、血管内を流れている血小板が減ってしまいます。
■ 溶血性貧血
血小板が集まって血の塊ができてしまうと、血管の内腔が細くなり、赤血球の通り道が狭くなります。その狭い部分を通ると、赤血球が機械的に壊れてしまい、血管内を流れている赤血球が減ってしまいます。

[原因]
細菌やウイルス感染、薬剤、遺伝などがあります。特に有名なのが病原性大腸菌です。病原性大腸菌には様々な種類がありますが、ベロ毒素という血管を破壊する成分をもつ大腸菌である、O-157、O-111、O-128などが溶血性尿毒症症候群を起こします。菌の出すベロ毒素が腎臓の毛細血管内皮細胞を破壊してそこを通過する赤血球を破壊することで溶血がおき、並行して急性腎不全となり、尿毒症を発症します。ベロ毒素産生性大腸菌に感染すると約10%程度が溶血性尿毒症症候群になると言われています。日本小児腎臓病学会の調査では、原因菌はO-157が91.5%、O-111が3.2%、O-26が2.1%、その他のO-1、 O-103、O-165が2.1%でした。

[症状]
先行症状として、病原性大腸菌などの感染症状である、腹痛、下痢、嘔吐、血便などがあります。数日〜2週間以内に、突然、以下の症状が出現します。
・顔色が悪く疲れやすい貧血症状
・赤血球が壊れることによる体が黄色になる黄疸
・血が止まりにくい、打ってもいないのに内出血(打ち身)が見られる出血傾向
・おしっこが出ない乏尿、体がむくむ浮腫、高血圧、息がしにくく体がだるい心不全や呼吸不全
・けいれんや意識がなくなってしまう精神神経症状

[治療]
胃腸炎の段階では十分に水分を補給して、脱水状態にならないようにします。強い下痢止めは菌や毒素が体から排泄されるのを遅くする可能性があるため、使用しません。抗生剤の使用については意見が分かれています。強力に大腸菌を殺菌すると毒素の放出が促進される可能性があるからです。
  溶血性尿毒症症候群になった場合、2週間ほど入院して治療します。貧血の強い場合には輸血が、急性腎不全になった場合には一時的に人工透析(とうせき)が必要になります。以前は死亡率の高い病気でしたが、現在は95%以上の子どもは救命可能です。

[予後]
溶血性尿毒症症候群の死亡率は10%程度と言われていますが、けいれん、意識が無いなどの症状がある場合は、死亡率が上がります。乳幼児やおしっこが全くでない無尿である時には、けいれんなどの症状が出やすく、死亡率が上がってしまいます。
溶血性尿毒症症候群になると、腎臓の機能が低下したままになってしまう慢性腎不全になるリスクは約5%と言われています。

「予防」
病原性大腸菌を中心とした感染予防が大切です。
・食材はできるだけ新鮮なものを選ぶ
・食材の保管は冷蔵庫なら10℃以下、冷凍庫は-15℃以下にする
・冷蔵、冷凍でもできるだけ早期に使い切る
・生の食材を避ける(病原体大腸菌は牛肉関連、キャンピロバクターは鶏肉関連)
・生の食材を使った時のまな板や包丁で野菜などを扱わない
・できるだけ食材を加熱する (75℃で1分間以上加熱すると細菌は死滅する)
・ミンチ以外は表面に菌が付着しているので、表面をしっかりと焼く
・ミンチは内部まで火を通す
・食事の前の手洗い
・トイレの後もしっかりと石鹸で手洗い
・井戸水もできれば、加熱する

今回の焼き肉チェーン店での原因は生の牛肉でしたが、1996年の堺市での給食からの集団食中毒は「かいわれ大根?」ともいわれましたが、本当の原因ははっきりしていません。料理屋では、サルモネラ、カンピロバクターによるものが多く、これらは鶏肉、ウズラの卵等の付着することが知られています。これから暑くなる季節ですので、食材の扱いには順分注意したいですね。

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