先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)(10/11/29更新)

[先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)とは]
生まれつき甲状腺のはたらきが弱い病気で、重症から軽症まで症状の出方はさまざまです。発生頻度は出生児5000〜6000人に1人と推測されています。しかし新生児マススクリーニングが始まると甲状腺機能低下症の程度が軽いお子さんも見つけられるようになり、今では世界各地のスクリーニングで3000〜4000人に1人くらいと報告されています。日本のスクリーニングはより軽度の甲状腺機能低下症も見つけられる仕組みとなっているため、最近では2000人に1人が治療を受けていると考えられています。

[原因]
胎児期に発生の異常で甲状腺が無形成や低形成に陥ったもの(欠損性)、舌根部などにとどまったもの(異所性)、甲状腺ホルモン合成の障害(甲状腺腫性)があります。まれに中枢性(下垂体性、視床下部性)の機能障害によるものもあります。近年、原因遺伝子の検索が進んでいます。

[症状]
新生児期の早期には黄疸の遷延(持続)、便秘、臍ヘルニア、巨舌、かすれた泣き声、手足の冷感などがあり、長期的には知能低下や発育障害が問題になります。顔つきは特徴があり,眼瞼(まぶた)がはれぼったく,鼻は低く,いつも口をあけ,大きな舌を出しています。これをクレチン顔貌といいます。皮膚は乾燥し,あまり汗をかかず、腹部は大きくふくれています。また、臍ヘルニア,がんこな便秘があります。また四肢とくに手足の指が短いことが特徴的です。大切なことは生後すぐの時期に甲状腺ホルモンがないと中枢神経の発達に非常に悪い影響を与えるので早期診断が大切です。
現在日本では、新生児マススクリーニングが行われており、症状が現れる前にほとんどが発見されます。ただしマススクリーニングで発見できない症例(TSH遅発上昇型など)の報告もあります。

[診断]
生後5〜7日に、血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定によるマススクリーニングが行われます。遊離サイロキシン(FT4)の測定を同時に行う地域もあります。TSHが高値であると、再採血あるいは精密検査になります。医療機関によっては、TSH、FT4などの再検査、大腿骨遠位端(えんいたん)骨格のX線検査、甲状腺の超音波検査などを行います。
一過性甲状腺機能低下症との区別のため、母親の甲状腺疾患(母親がバセドウ病の場合には抗甲状腺薬内服の有無)、胎児造影、イソジン消毒などによるヨード大量曝露(ばくろ)の有無などの確認が重要です。

[治療]
診断が確定したら甲状腺ホルモン製剤を投与します。症状がそろっていて、濾紙によるマススクリーニングのTSHの値が異常に高い場合には治療を開始します。
早期診断・早期治療がその後の発達に大きく影響します。生後3か月以内に治療が開始できれば正常の発達を期待できますが,生後12か月以後では知能障害を残してしまいます。

[一過性甲状腺機能低下症]
ずっとこの先天性甲状腺機能低下症を抱えていくわけではなく歳をとるにつれてホルモンが出るようになり、薬を飲まなくてよくなる事を一過性と言います。一過性については「この子は一過性である」とは断言できません。 なぜならその子がこれから先、ホルモンが出るようになるか、出ないようになるかは予想がつかないからです。お母さんが妊娠中にワカメなどヨードをすごく大量に取りすぎた場合一過性になるようです。また、未熟児だった場合も一過性の可能性もあります。
この場合もある程度の期間は甲状腺ホルモンの服用を続け、辞めても良い時期を検査をしながら判断します。

新生児マススクリーニングのおかげで、この先天性甲状腺機能低下症が本当に早く発見されるようになりました。早く治療を始めると、まず問題はありません。一過性のものも多数含まれ、私か経験するものは殆どこの状態のようですが、とにかく副作用も無い薬ですので、服用をすることが大切だと思います。

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