小児の糖尿病(10/11/1更新)

糖尿病は、おとなの病気と考えられがちですが、子どもにも起こります。小児の糖尿病はインスリン依存型が多く、やせ型の子がかかるのが特徴です。また、激しい自覚症状を伴って急激に発病し、進行も早いので、注意が必要です。

[糖尿病とは]
糖尿病は体が十分なインスリンを産生しないため、血糖(ブドウ糖)値が異常に高くなる病気です。
インスリンをつくる能力が極度〈きょくど〉に低下、あるいはなくなってしまう型(1型糖尿病)は、むしろ子どもに多く発病します。おとなに多くみられる糖尿病は、インスリンの分泌のしかたが悪くなったり、あるいはインスリンの効き方が悪くなるタイプ(2型糖尿病)ですが、最近は、この型が中学生や高校生にも多く発見されています。ふつう小児糖尿病という場合には、乳幼児にもみられ、10歳から15歳の間に発病年齢のピークがある1型糖尿病のことをさしています。

1型糖尿病と2型糖尿病−相違点一覧−
 

1型糖尿病

2型糖尿病

インスリンの分泌能力

ゼロ

分泌するが効きめが悪い

発病原因と遺伝確率

遺伝的原因50%
後天的原因50%
(ウイルス感染など)

遺伝的原因90%
後天的原因10%
(肥満など)

基本となる治療法

インスリン療法

食事療法
運動療法

補助的な治療法

食事療法
運動療法

インスリン療法

[原因]
1型糖尿病/年間発症頻度:小児10万人に1〜2人
1型糖尿病の原因は子どもでも大人でも変わらず、膵臓のβ(ベータ)細胞の破壊によるインスリン分泌の絶対的な不足によります。β細胞の破壊原因には自己免疫機序(仕組み)とそれ以外のものが考えられます。
それ以外の原因は、膵臓特異的自己抗体(すいぞうとくいてきじここうたい)が発症時に検出されない場合です。これは、ある種のウイルス感染や牛乳哺育が原因であるように報告されたこともありますが、確定に至ってはいません。ウイルス感染が直接1型糖尿病を発症する(他人に感染するという意味)のではなく、感染後の免疫の過剰反応とか、ウイルスの蛋白質の一部を自己抗原と認識してしまうために、自己免疫機序によるβ細胞の破壊が起こると考えられています。
最近、劇症タイプで発症する1型糖尿病が注目を集めていますが、この病型は子どもには極端に少ないものです。

2型糖尿病/年間発症頻度:小児10万人に4〜6人
子どもの2型糖尿病の原因は大人の2型糖尿病の発症原因と同じく、インスリンの分泌不全とインスリン抵抗性が考えられます。もともと日本人は欧米人に比べてやせ型で、農耕民族であるためにインスリンの分泌予備能力は欧米人にくらべて劣っています。この状態で高カロリー、高脂肪食をとっていると、血糖の上昇が起こりやすいと考えられます。
一方、筋肉や脂肪組織など糖を消費する組織(末梢組織という)におけるインスリン作用の劣化(これをインスリン抵抗性という)も2型糖尿病の原因となります。多くのエネルギーがなくても末梢組織の活動性を保つことができる体質になっていると考えら
れます。2つの機序とも遺伝的に制御されているので、2型糖尿病は親から子へ遺伝するといわれています。

[症状]
1型糖尿病の症状の現れ方は急激です。肥満していない子どもが急激にやせてくる、水をよく飲む、トイレが近くなった、夜尿が増えた、などの症状が多くみられます。
2型糖尿病は、大人と同じく無症状です。そのため、学校検尿が毎年1回行われています。
もちろん、肥満児が急激にやせてきて、2型糖尿病と診断される例もあります。この典型例が一般にペットボトル症候群といわれているもので、清涼飲料水ケトーシスとも呼ばれます。一度に大量の単糖類がとられた時、体内での糖代謝がうまくいかなくなり、一見1型糖尿病のように急激なケトアシドーシス(異常な高血糖と腹水と、対内にケトンが産生される状態で、何らかの意識障害を伴うことが多い)で発症してくるタイプです。

[治療]
治療の主な目的は、できるだけ血糖値を正常値近くに保つことです。血糖値をコントロールするためにインスリンや経口薬などを投与し、ライフスタイルを変えます。食事の調整や毎日の運動を行い、太りすぎの子供には減量を行います。
1型糖尿病と最初に診断されたときは、子供は通常入院します。糖尿病性ケトアシドーシスのある子供は集中治療室で治療します。1型糖尿病の子供はほかの治療では効果がないので、インスリンを常に必要とします。毎日2回以上のインスリン注射を受けます。ポンプを使って皮下に継続的にインスリンを注入する場合もあります。インスリン治療は、血糖値を頻繁に検査し、それに応じてインスリン投与量を変えることができるように病院で開始します。まれですが、自宅で治療を始めることもあります。
2型糖尿病の子供は病院で治療を受ける必要はありませんが、薬による治療を必要とします。この薬剤は2型糖尿病の成人に使用される薬(主な経口血糖降下薬を参照)ですが、子供にも安全です。しかし、特に下痢などの副作用は、子供の場合はより問題になります。2型糖尿病の子供の中には、インスリンを必要とする子供もいます。減量した子供、食事の改善や運動をしている子供は、薬剤を中止することもあります。


小児の糖尿病は発症頻度から分かるようにあまり多い病気ではありません。が、糖尿病の症状に気づいたら、すぐ専門の医療機関(小児科・内科など)を受診してください。1型糖尿病の場合、ケトアシドーシスの状態から昏睡状態になることがあるので、早急に受診して、血糖値を測定してもらってください。
2型糖尿病の場合は、気づいてからではすでに遅いことが多いので、学校での検尿を毎年必ず受けてください。私は1型糖尿病が学校検尿で発見された例も経験しており、たまに少し発症の遅い1型糖尿病もありますので、学校での検尿は非常に大事なものであることを忘れないでくださいね。

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