漏斗(ロート)胸(10/5/17更新)

[漏斗胸とは?]
漏斗胸は,胸骨と肋軟骨および肋骨の一部が脊柱方向に向かって漏斗状に陥凹した胸壁の異常、またはその変形の状態をいいます。漏斗胸はおおよそ1000人に1人程度の割合で起こり、男子に多いと言われています。背骨(脊椎)から左右に12本の肋骨が出ていますが、この肋骨は前の方で軟骨(肋軟骨)となり前胸部の中心にある胸骨につながっています。漏斗胸はこの胸骨が陥凹しているのですが、実は肋軟骨の変形が原因と考えられています。
  

[症状]
心臓の位置も正常より左よりに押され、呼吸の力も少し抑制されます。一般的に無症状のことが多いようですが、幼児期に上気道感染(風邪など)を起こしやすかったり、扁桃腺肥大やアデノイドなどが見られることがあります。中には、心臓への圧迫や肺への圧迫などにより、疲れやすい、激しい運動による動悸・息切れ、呼吸が浅いとか不整脈が現れる場合があります。医学的症状はあまり認められませんが、外観による影響が少なからず生じるようです。

[治療]
心肺の圧迫症状があれば絶対的手術適応となりますが、それほどでなくても人前で裸や薄着になることを嫌がったり、内気になるなど精神発育に障害を与える場合もあり、本人や両親の希望があれば手術適応としてよいと考えられます。手術時期は3歳から小学校入学前に行うと胸郭の変形はほぼ正常となり、心臓の偏位や呼吸機能、循環機能も改善します。中学生以上や成人でも手術は可能ですが、前胸部の陥凹は改善されても胸は扁平なままで、心肺機能の改善は望めないようです。以前には、胸の正中を長さ15cm位切開する必要がありましたが、今では 胸の下の方を水平に5cm切開するだけで手術できるようになったので創あとも目立ちにくくなったようです。また最近では、胸の横の方を2〜4ヶ所1cmずつ切開するだけでよい治療もあるようですが、医療機関によって手術方法は違いますので問い合わせてください。「うちの子は、漏斗胸かもしれない。」とお考えの場合、まずは、心臓血管外科や形成外科のある大きな病院で相談されるのがいいと思います。手術の絶対適応の有無を確認し、最善の方法を考えましょう。
手術時期は3歳以降に行っている施設が多いようです。変形した部分の胸骨をひっくりかえす方法(胸骨翻転法)、肋軟骨を切除して胸骨を挙上する方法(胸骨挙上法)と人工の器具を用いる3つの方法に大別されます。各施設によりさまざまの工夫が行われておりますので、どの方法を選択するかは主治医とご相談ください。
最近では,アメリカで開発されたナス法(ナスはこの方法を開発した医師名です)という新しい方法も行われています。ナス法は陥凹している胸骨の裏側に金属製のバーを入れ、裏側から前方へと胸骨を押しだして矯正し、3年程度胸骨をいい位置で固定し、バーを抜きとる方法です。この方法はまだ歴史が浅く長期的な成績は現在検討中です。


漏斗胸の手術適応の決定は外見上の異常を本人がどれくらい気にするかが一番大きな要因です。ただ、手術の適応年齢が3〜5歳ということで、本人にはまだ手術を選択する意識はなく、保護者が決めないといけない状況でありますので、難しい問題かと思います。非常に高度の陥没でなければ、胸郭の変形も個性の一部として考えることができることがベストだと思います。

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