セラチア菌感染症(08/6/16更新)

[セラチアとは?]
大腸菌や肺炎桿菌などに近い細菌で、正式には"Serratia marcescens"という学名で表記されます。糞便や口腔などからしばしば分離される常在菌の1種ですので、この菌が分離されたからといっても、ただちに「異常」や「病気」と言う訳ではありません。

[セラチアによる感染症]
人に対しては非常に毒性が弱く、健常成人の場合、セラチアが皮膚に付いたり、たとえ口から入ったりしても、腸炎や肺炎、敗血症などの病気になることはまずありません。
セラチアの感染が問題となるのは、手術の後や重症疾患などが原因で感染に対する防御能力が低下した場合です。特にセラチアが血液、腹水、髄液で繁殖してしまうことが問題となります。そのような場合には、セラチアが産生する毒素により血圧が急激に下がったり、また、その結果、腎臓や肝臓の機能が障害され、「多臓器不全」という状態に陥ったりする場合があり、その際には死亡する危険性が非常に高くなります。

[セラチアが血液などに混入する原因や経路]
(1)内因性感染症
癌の末期や極度の免疫不全状態などの際、腸管からの細菌の侵入を阻止しているバリアの機能が低下し、腸管内に常在している菌が血液中に侵入し、菌血症や敗血症を引き起こす場合
(2)感染症に伴う場合
腎盂炎などの際に腎臓から血液中に菌が入る場合や、重症の肺炎や術創感染症などに伴って、菌血症や敗血症になる場合
(3)外因性感染症
セラチアにより汚染された注射剤や輸液ルートが原因で、血液中に菌が人為的に送り込まれる場合
健常者の糞便などにいる「通常のセラチア菌」は、たとえ感染症を引き起こしたとしても通常の抗生物質で十分な治療が可能です。しかし一方、「多剤耐性セラチア菌」は、抗生物質の乱用により生まれた新種の菌で、ほとんどの抗生物質の効果がないことがあり、感染症や化学療法の専門家の間で警戒が高まっています。つまり、普通のセラチアと「多剤耐性セラチア菌」は、治療や対策の際に、区別して取り扱われる必要があります。

[必要な対策]
(A)患者さん各々に対する対応で治療する場合
上記の(1)や(2)の場合で、通常のセラチアによる感染症が散発的に発生している場合は、個々の患者さん毎に、感染原因の特定や抗菌薬の投与など感染症の治療が中心となります。
(B)院内感染対策が必要な場合
(3)のように、複数の患者の血液、髄液などの通常無菌の場所から、同時期にセラチアが分離された場合には、何らかの共通の感染源が存在する可能性があり、院内感染の可能性も高いため、普通のセラチアであっても、感染原因の究明と対策が必要になります。
しかし、感染症を引き起こしているセラチア菌が多剤耐性菌である場合には、医療施設内での拡散を防止する対策が必要となってきます。

  セラチアは水や土壌に広く分布し、病院だけではなく、一般の家庭でも洗面台などの湿潤環境に存在します。S.marcescensは赤色からピンクの色素を産生することが多く、洗面台などにバイオフィルムを形成しているのが見えることがあります。
  一般の健常人に対してはこの菌は平素無害菌であるので、家庭などでは特に注意するべきことはありません。

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