猫ひっかき病(06/12/4更新)

[原因]  この病気の病原体は最近までわかりませんでしたが、1992年にグラム陰性の桿菌であるバルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)であることが判りました。

[症状]  症状は主にリンパ節炎で、ネコに引っ掻かれた後10日頃から傷が赤くはれ、手の傷なら腋窩(脇の下)リンパ節が、足の傷なら鼠径(足の付け根)リンパ節が腫れ上がり、時には鶏の卵くらいになります。ほとんどの人で微熱が長く続き、全身倦怠、関節痛、吐き気等があります。自然に治ることが多いのですが、治るまで数週間から場合によっては数ヶ月かかることもあります。
バルトネラ・ヘンセレはエイズの患者さんに多い細菌性血管腫からも検出されており、免疫不全の人や、免疫能力の落ちたお年寄りでは同じような症状を起こすことも考えられます。重症例では麻痺や脊髄障害の例も報告されています。

[感染のしかた]  この菌はネコに対しては全く病原性はありませんので、感染したネコにも全く症状はありませんが、18ヶ月以上も感染が続くとされています。ネコからネコへの菌の伝搬にはノミが関与しています。ノミが感染したネコの血を吸うことにより、ノミの体内に菌が入り、やがてノミの体内で増殖した菌はノミの糞便中に排泄されます。その菌をネコが歯あるいは爪に付着させ、ネコからヒトあるいはネコ間で傷ついた皮膚を介して(必ずしもネコに派手に引っかかれる必要はありません、また、目に見えない小さな傷を介することもあります)瘡傷感染するものと思われます。
  日本ではネコの9%〜15%が菌を保有しているとの報告があります。北より南(気温の高い所ほど)、雌より雄(喧嘩する機会が多いほど)、飼いネコより野良ネコ(蚤の寄生が多い、あるいは他のネコとの接触回数の多いほど)の方がこの菌の保有率が高い傾向にあります。

[発生数]  米国の調査では、年間約4万人がこの病気にかかり、年齢別では15歳以下が半分を占めます。子供が多いのは飼いネコや野良猫を乱暴に扱い、ひっかれたりする頻度が高いからと見られています。日本では全国調査がされていないために患者数は不明ですが、おそらく全国で年間2万人程度であろうと言われています。患者発生に季節性が認められ、夏から初冬に多く、ネコにつくノミの繁殖と関係があると思われます。またこの時期は春に生まれた子ネコが外を出歩くようになる時期で、他のネコとの接触によりノミを介して、あるいは噛まれたり、引っ掻かれたりしてネコの間で広がり、人に感染させているのではないかと思われます。

[治療]  免疫機能が正常であれば、通常は自然に治るので、抗生剤による治療は行いません。免疫異常の患者さんや重症の場合にはアジスロマイシン、ドキシサイクリン、シプロフロキサシンなどの薬で治療を行います。

[予防]  この病気の病原菌はノミが媒介します。また、ダニがこの菌を媒介する場合があることも知られていますので、最大の予防策はネコにノミやダニが付かないように心がけることです。簡単に出来ることですが非常に重要なことです。特にノミがたくさん付いた仔ネコから感染する比率が高いので、仔ネコにノミが付いている場合には必ずノミを駆除することが重要です。

  猫も大事な家族の一員であるところも多いですね。でも野良猫と格闘することもあるかも?過度のスキンシップは避け、猫に触ったら手を洗う、飼い主の顔をなめさせない、口移しでえさを与えない、一緒に寝ない、ひっかかれたら小さな傷でもよく消毒することなどが大切です。猫の衛生状態に気をつけ、特にネコノミを定期的に駆除し、つめを切っておくことにも注意が必要ですね。

copyright(c) 2004 Yamauchi Clinic. all right reseaved.