狂犬病(06/11/27更新)

[原因]  狂犬病ウイルス(rabies virus:ラブドウイルス科リッサウイルス属)を病原体とするウイルス性の人獣共通感染症。名称からは「犬だけの病気」と考えられがちですが、狂犬病ウイルスはヒトを含む総ての哺乳類に感染するので、イヌだけではなく、ネコ、アライグマ、スカンク、キツネ、コウモリなどから感染することもあります。感染した動物の咬み傷などから唾液と共にウイルスが伝染します。コウモリが感染源の場合は、直接接触しなくても空中から撒き散らされるウイルスに人が感染したとされる例があります(ただし、この事例は因果関係がはっきりしていません。少なくとも空気感染はしないことが確認されています)。人から人への感染はありません。

[症状]  潜伏期間は咬傷の部位によって大きく異なります。咬傷から侵入した狂犬病ウイルスは神経系を介して脳神経組織に到達し発病しますが、その感染の速さは日に数ミリから数十ミリと言われています。したがって顔を噛まれるよりも足先を噛まれるほうが咬傷後の処置の日数を稼ぐことが可能となります。脳組織に近い傷ほど潜伏期間は短く、2週間程度。遠位部では数か月以上、きわめてまれには7年という記録もあります。
  前駆期には風邪に似た症状のほか、咬傷部位にかゆみ(掻痒感)、熱感などがみられます。急性期には不安感、恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)、興奮性、麻痺、精神錯乱などの神経症状が現れ、その2日から7日後に昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡します。
  発病後の死亡率はほぼ100%で、治療法はありません。記録に残っている生存例は僅か数例しかありません。2004年10月、アメリカ・ウィスコンシン州において狂犬病発症後に回復した症例があります。これは、発症後に回復した6番目の症例であり、ワクチン接種をしないで発症した場合の唯一の生存例です。

[治療]  咬傷を受けたら、まず傷口を石鹸水でよく洗い、消毒液やエタノールで消毒すること。狂犬病ウイルスは弱いウイルスなので、これで大半は死滅します。そしてすぐにワクチン接種を開始すること。事前に予防接種をしていなければ合計6回、していれば2回接種します。 この接種は潜伏期間内に必要回数を受けなければならず、咬傷部位によっては接種回数が間に合わず発病に至ってしまうケースもあります。また、WHOでは初回接種時に狂犬病免疫グロブリンを併用することを推奨していますが、日本国内では未認可のため入手不可能で、外国でも一部地域を除き入手困難な場合が多いです。いずれにしても大事なことは、まず直ちに洗浄消毒することです。

[予防]  ワクチン接種によって予防が可能です。これはヒト以外の哺乳類でも同様であり、そのため日本では狂犬病予防法によって飼い犬の登録と飼い犬へのワクチン接種が義務化されています。ただし、日本では犬も含めてほぼ50年発病はないので、いずれ必要なくなるでしょう。
  犬などに咬まれて感染した可能性がある場合には、発症を予防するため出来るだけ早く接種を開始する必要があります。暴露後ワクチンは、初回のワクチン接種日を0日として、3日、7日、14日、30日及び90日の計6回皮下に接種します。
海外旅行へ行った際には日本国内と同じ感覚で現地の動物に手を出さないようにすることが重要です。

[流行地域]  流行地域はアジア、南米、アフリカで、とくにインドでは毎年30,000人が発病して死亡、全世界では毎年50,000人が死亡しています。世界中で日本以外に狂犬病が発生していない国・地域は、イギリス・アイルランド・アイスランド・ノルウェー・スウェーデン・台湾・ハワイ・グァム・フィジー・オーストラリア・ニュージーランド・プーケットと非常に少ないです。 撲滅した国は日本や台湾、ニュージーランド、イギリスなど島国が多いです。中国では、近年死亡者が激増しており、2008年の北京オリンピックに向けて撲滅に躍起になっていますが、犬の撲殺が広範囲にわたって行われるなど、方法が極端であり、動物愛護の観点から社会問題化しています。


→狂犬病の発生状況


[日本での発生状況]
  日本国内では1950年狂犬病予防法の施行による飼い犬の登録とワクチン接種の義務化、徹底した野犬の捕獲によって1956年以来、犬、ヒト、共に狂犬病の発生はありません。
  国内での感染が確認されなくなって以降、日本で狂犬病が発症した事例は3件で、ともに海外での感染です。 一つは1970年にネパールを旅行中の日本人旅行者が現地で犬に咬まれ、帰国後に発病・死亡した事例。残り2例は今年11月のもの。京都市在住および横浜市(2年前からフィリピン滞在)の60代の男性がフィリピン滞在中に犬に噛まれたことが原因で狂犬病を発症し、京都市の男性は死亡しています。
  犬に限らず狂犬病に感染している動物がペットとして海外から日本へ持ち込まれる可能性は常にあります。また、狂犬病以外の人畜共通感染症に感染した動物がペットとして日本に輸入される可能性もあり、近年の愛玩動物の輸入増加とともに問題視されています。

  狂犬病は人から人へ感染することはありませんので、海外で犬に咬まれて発症しても国内では流行はしません。日本では狂犬病が撲滅されて久しく、その危険を軽視しがちです。われわれ日本人旅行者は、犬や猫を見ると無防備に手を出し、なでたり、手から直接エサをあげたりします。狂犬病による死者は世界で年間5万5000人とも推計されており、海外に渡航する日本人は年々増えているので、36年間もなかったことが逆に少ないのかもわかりません。むやみに野犬や野良猫、野生動物に手を出さないようにしましょう!!

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