ジフテリア(06/10/30更新)

[発生数]  我が国におけるジフテリア患者の届け出数は、1945 年には約8万6 千人(その約10%が死亡)で したが、最近10 年間(1991〜2000 年)では21人(死亡2人)と著しく減少しました。ジフテリアを 含む三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風:DPT )は世界各国で実施されており、その普及とともに各国においてジフテリアの発生数は激減しています。旧ソ連圏では、かつてはDPT の普及によってジフテリア患者数は極めて少数となっていましたが、政権崩壊のあおりを受けてワクチンの供給不足、あるいは安定性の低下によって住民の免疫レベル は低下し、その結果旧ソ連圏一帯でジフテリアが再び流行しました。1990 〜1995年で125,000人の患者が発生し、4,000人以上の死亡が確認されました。国際協力によるワクチ ンの接種強化により、旧ソ連でのジフテリアは再び減少しています。このようにワクチン接種率が低下すると、ジフ テリアは再び流行する危険性がある ことが示唆されています。欧米諸国や 発展途上国でも散発例が見られてお り、海外渡航者の感染発症事例もあります。

[原因]  ジフテリア菌(Corynebacterium diphteriae )の感染により発症すます。患者や無症候性保菌者の咳などにより、飛沫を介して感染します。毒素産生菌、非産生菌とも重症化の可能性があります。

[症状]  2 〜5 日間程度の潜伏期を経て、発熱・咽頭痛・嚥下痛などで始まります。鼻ジフテリアでは血 液を帯びた鼻汁、鼻孔・上唇のびらんがみられます。扁桃・咽頭ジフテリアでは扁桃・咽頭周 辺に白〜灰白色の偽膜が形成されます。ジフテリアの偽膜は厚く、その境界は鋭利で剥れにくく、剥がすと出血しやすいです。頸部リンパ 節炎が特徴的であり、高度に腫張すると牛頚 (bull neck)状となります。喉頭ジフテリアは咽頭 ジフテリアから発展する場合が多く、嗄声・犬吠性咳嗽が特徴的です(真性クループ)。気道にも偽膜が形成されるため、呼吸困難が生 じます。膜形成が声門、気管支まで進展すると、気道閉塞をきたし死に至ることがあります。

[合併症]  早期(1 〜2 病週)および回復 期(4 〜6 病週)にあらわれる心筋炎がもっとも予後不良で、この間は突然死に対する厳重な警戒 が必要です。したがって、主症状が改善した後も慎重な観察が必要となります。末梢神経炎によ る神経麻痺は合併症の頻度として高いですが、予後は比較的良好です。

[治療と予防]  治療開始の遅れは予後に著しい影響を与えるので、臨床的に本症が疑わしければ確定診断 を待たずに治療を進める必要があります。
  治療には動物(ウマ)由来の血清療法が行われるので、アナフィラキシーに対して十分な配慮をする必要があります。治療により、予測不能なショック症状およびショック死の可能性もあり得ます。抗菌薬としてはペニシリン、エリスロマイシンなどに感受性があります。しかし、予防に勝る治療法はないです。
  予防としては、世界各国ともEPI(Expanded program on Immunization :拡大予防接種事業)ワ クチンの一つとして、DPTワクチンの普及を強力に進めている。我が国では1948 年にジフテリア単 独ワクチン、1958 年にジフテリア・破傷風混合ワクチン、1968 年以降にDPTワクチンとなり、さらに 1981 年から現行のDPT ワクチン(百日咳ワクチンは無細胞ワクチン)となっている。予防接種の普 及により、わが国では現在年間1 名程度の発症が報告されているにすぎないが、今後ワクチン接 種者が減少した場合や、海外からの持ち込みにより流行の可能性が懸念されます。

  ジフテリアは1970年代前半に一時期DPT接種が中止になった時も、その後に百日咳のように大流行した、ということはありませんでした。今も患者の発生は日本脳炎よりも少ないです。でも、ジフテリアの予防接種は必要がない、という話にはなりません。これはワクチン自体に特別な問題もない、というのもあるかもわかりませんが、ジフテリアは細菌で、ウイルスとは違って、宿主がいなくなれば消滅してしまう・・・ということがありません。菌が生き続ける限りは感染する可能性がある、ということなんですね。だから、ワクチンを止めることはできません。そういう意味では、日本脳炎ウイルスも、地球上から消滅した痘瘡ウイルスや、撲滅をめざしているポリオや麻疹のウイルスとは違って、人間以外にも、豚の中で生きることはできますので、消滅させることはできませんね・・・。ということはやはり、今の日本脳炎ワクチンが積極的にうたれていない状態は、あまり良いことではないのでしょうね。


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