虫さされ(06/9/19更新)

[症状]  虫さされによって生じる皮膚症状には、大きく分けると「痛み」と「かゆみ」があります。痛みには、虫が皮膚を刺したり咬んだりすることによる物理的な痛みと、皮膚に注入される物質の化学的刺激による痛みがあります。かゆみは、皮膚に注入された物質(毒成分や唾液腺物質)に対するアレルギ−反応によって生じます。そして、アレルギー反応には主に即時型(すぐに起こる)反応と遅延型(ゆっくり起こる)反応があります。即時型反応は、虫の刺咬を受けた直後からかゆみ、発赤、ジンマシンなどが出現し、数時間で軽快する反応です。一方、遅延型反応は、虫の刺咬を受けた1日〜2日後にかゆみ、発赤、ぶつぶつ、水ぶくれなどが出現して、数日〜1週間で軽快する、という反応です。これらのアレルギー反応は、虫に刺された頻度やその人の体質によって症状の現われ方の個人差が大きいのが特徴です。

 
虫の特徴
症状
処置

人を好んで刺す蚊は約8種類いるといわれています。
メスだけが産卵のための栄養源として人や動物の血を吸います。
蚊に刺された場合の皮膚反応としては、刺されてすぐに出現する発赤、痒み(即時型反応)と、刺されて1〜2日で出現する発赤、痒み(遅延型反応)があります。これらの反応は年齢と共に変化します。一般に乳幼児期には遅延型反応のみ、幼児期〜青年期には即時型反応と遅延型反応の両者、青年期〜壮年期には即時型反応のみが出現し、老年期になるといずれの反応も生じないとされますが、実際には個人差がかなりあるので一概にはいえません。 腫れ、かゆみは子供の方がひどくなりやすいので、掻かないようにして、なるべく早く抗ヒスタミン薬配合の外用剤をぬります。 かゆみがぶりかえすようであればステロイド成分を配合している外用剤をぬります。
ノミ
ノミによる被害はほとんどがネコノミによるものです。ネコノミは体長2〜3mmで、ノラネコやイヌの体に取りついて吸血しますが、庭や公園などで地面に成虫を落としていくので、そこを人が通った際に足元から飛び付いて吸血します。オスもメスも血を吸います。 室内で飼っているネコにノミがいる場合は室内でも吸血被害を受けます。屋外で刺された場合はスネや足を集中的に刺されるのが特徴で、しばしば水ぶくれを作ります。しかし、室内では腕や体も刺されます。ノミに刺されてもその場では気付かず、刺咬後1〜2日後に赤いブツブツができて初めて気付く人も多いようです。刺された経験の少ない人ほどかゆみが非常に激しく、大豆大からサクランボ大の水ぶくれができることがあります。  抗ヒスタミン薬とステロイド成分を配合している外用剤をぬります。
ツメダニ
ダニによる虫さされの原因としては、ネズミに寄生するイエダニ類による室内での被害が多いようです。イエダニ類は体長0.7mm前後ときわめて小さい上に、寝ている間に布団に入り込んで吸血するため、刺されている場面はほとんど見ることができません。 顔や手足はほとんど刺さず、わき腹や下腹部、ふとももの内側などを刺して、かゆみの強いごま粒か米粒大の赤いブツブツができます。 症状が数日〜10日間前後続きますので、抗ヒスタミン薬とステロイド成分を配合している外用剤をぬります。
マダニ
山でのハイキングや野外レジャーの際にマダニ類による刺咬を受けることがあります。マダニ類は体長1〜3mmで、本来は野生動物に寄生していますが、ヒトの体に取りついて、わき腹やふともも、陰部などの皮膚に咬みついて吸血します。 吸着、吸血時とも一般に自覚症状はなく、数日後にはダニの腹部が数mm大に膨らみ、飽血状態となって脱落します。無理に引き抜こうとすると、頭部が皮膚に残って炎症を起こすことがあります。 虫体を無理にむしり取らないこと。皮膚科医の治療を受けてください。
ハチ
アシナガバチやスズメバチの場合は、庭木の手入れや農作業、林業、ハイキングなどの際に刺されることが多く、特に秋の野外活動での被害が多いので注意が必要です。ミツバチに刺されるのは養蜂家の方々が多く、一般人が刺されることは稀です。ミツバチは一回刺すと死にますがアシナガバチやスズメバチは何回でも刺すことができます。 ハチに刺されると、まず激しい痛みが出現し、赤く腫れます。これはハチ毒の刺激作用によるもので、初めて刺された場合、通常は1日以内に症状は治まります。しかし、2回目以降はハチ毒に対するアレルギー反応が加わるため、刺された直後からジンマシンを生じたり、刺されて1〜2日で強い発赤、腫れを生じたりします。この反応には個人差が大きいですが、ひどい場合は刺されて30分〜1時間で意識消失や血圧低下などを生じて、死に至ることがあります。これはアナフィラキシーショックと呼ばれる症状で、ハチ刺されによる死亡事故はこの特殊な反応によるものです ミツバチの場合は比較的軽症ですが、スズメバチやアシナガバチの場合はアレルギー反応を示し、数回刺されるとショック症状を起こし、死亡する場合もあります。刺されて気分が悪くなるようであれば即救急車を手配します。
ケムシ

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日本皮膚科学会
すべてのケムシが毒を持っているわけではありません。ごく一部の、有毒毛を有するケムシに触れることによって皮膚炎を生じます。
有毒毛には主に毒針毛(どくしんもう)と毒棘(どくきょく)があり、前者はドクガ類(ドクガ、チャドクガなど)、後者はイラガ類(イラガ、ヒロヘリアオイラガ)の幼虫に備わっています。
ドクガ類の毒針毛は長さ0.1〜0.2mmの微細なもので、幼虫1匹に数十万本以上が密生しているため、これに触れると激しい痒みを伴うジンマシンのような症状、あるいは赤いブツブツが多発します。これは首やうでに集中して生じるのが特徴で、掻くことで次第に増数します。都心部や市街地ではツバキやサザンカにつくチャドクガの幼虫による被害が多く、問題になっています。庭木の手入れをした後に発症することが多いですが、ケムシに触れた覚えがなくても皮膚炎を生じる例が意外に多いようです。イラガ類の毒棘に触れると、その瞬間にピリピリした激しい痛みと発赤が出現し、1〜2時間で一旦治まります。しかし、その翌日に同部が赤く腫れてかゆみが生じることがあります。
人家周辺ではサクラやカエデ、バラ、クスノキなどにつくヒロヘリアオイラガの幼虫による被害が多発しています。
刺された直後不用意に掻くと毒針毛を更に擦り込み症状を悪化させるので、粘着テープでそっと取る。あるいは水洗してから抗ヒスタミン薬とステロイド成分を配合している外用剤をぬります。
アリ
通常、庭にいるアリは刺しませんが、山間のヤマアリはかんだり、尻にある針でチクリと刺し、蟻酸を振りかけます 軽い痛みと小さな傷ができます。 炎症症状は軽いので、抗ヒスタミン薬配合外用剤をぬります。
ムカデ
肉食性で、気性が荒く、昆虫類等を食べて生活しています。夜間ゴキブリやクモなどを食べるために家に入ってくることがあります。吸血性はないので、そばにきても不用意に払ったりしなければ被害はありません。 かまれた瞬間に激痛が走り、しびれてきます。その内、赤くなり腫れてきます。
数日間続き、場合によっては潰瘍化したりします。
抗ヒスタミン薬とステロイド成分を配合している外用剤をぬります。
ブヨ(ブユ)
山間渓流のところに多く生息し、朝夕活動が活発になり集団で襲う傾向があります。蚊と違い皮膚をかじり流れ出る血を吸います。 特に露出したスネ付近を刺される人が多いようです。刺されると少量の出血があり、通常は刺されている時は痛み、かゆみをほとんど感じず、刺されて半日くらいすると刺された所が赤く腫れて次第に激しい痒みを生じます。そして、赤いしこりができて長く残る人もいます
かきむしりによる2次感染には注意してください。
抗ヒスタミン薬とステロイド成分を配合している外用剤をぬります。
アブ
放牧場などで馬、牛などを好んで吸血します。動物がいなければヒトを狙ってきて吸血します。
刺すのではなく、刃状の口器で切り裂き流れ出る血を吸います。
瞬間的に激痛があり、その後強いかゆみを生じ、赤く腫れあがり、熱感が出てきます。2次感染に注意してください。
抗ヒスタミン薬とステロイド成分を配合している外用剤をぬります。

  なお、最近では海外から様々な生き物(サソリなど!)が輸入され、ペットとして飼われていますので、これらの生き物によって被害が生じる可能性もあります。また、近年ではセアカゴケグモのような毒グモが定着している地域もあり、咬まれると局所の痛みだけでなく筋肉痛や吐き気、頭痛などの全身症状をきたすことがあるとされています。

[治療]  虫さされの治療は、軽症であれば市販の痒み止め外用剤でもよいですが、赤みや痒みが強い場合はステロイド外用剤が必要です。症状が強い場合は抗ヒスタミン剤やステロイド剤の内服が必要になるので、受診するのがよいでしょう。ただ、これらの治療はあくまで現在の皮疹を抑えるのが目的であり、原因虫からの回避、あるいはその駆除対策を実施しなければ皮疹の新生が続きます。
  日本に生息している虫には、ヒトの生命を脅かすほどの猛毒を持つ種類はほとんどいません。しかし、刺された後に強いアレルギー反応が起こって、全身にジンマシンが出たり、気分不良や腹痛、意識消失などが生じることがあります。特に注意が必要なのはハチで、中には刺されて30分以内にショック症状をきたす特異体質の人がいますので気をつけて下さい。最近はショック時にそなえて、エピペンという皮下注射薬を処方することがあります。

  実際には、発疹を見て何の虫に刺されたか、という事を診断するのは難しいですね・・・。家の中でいったい、何の虫がいたのか?と思うぐらい、腫れのひどいケースもありました。強い全身症状が出る可能性があるのは、ハチの場合ですが、かならず全員がショックを起こすわけではありませんので、いたずらに不安にならなくても良いとは思いますが・・・。

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