タミフル(05/11/28更新)

〔作用機序〕
成分はリン酸オセルタミビル。インフルエンザウイルスが持っているノイラミニダーゼという酵素を働かなくし、新しく細胞内で増殖して形成されたインフルエンザウイルスが、細胞外に遊離・放出されることを抑制するため、ウイルスの増殖を抑制します。直接ウイルスを殺すのではありません。薬の形としては、服用して体内に入って代謝された後、活性体に変わって効力を発揮します。従って発症してから、48時間以内の服用であれば効果はありますが、48時間以後に服用した場合の有効性は確認されていません。

〔母乳への移行〕
乳汁中に移行はします。ただし微量であり、その殆どが吸収高率の悪い活性体であるので、母親がタミフルを内服しても、乳児に授乳を中止する必要はないし、同時に乳児がインフルエンザの治療でタミフルの内服を開始した場合も、タミフル投与量を減ずる必要はないと考えられています。

〔乳幼児への投与の安全性〕
ラットを用いた試験で、幼若ラットでは、リン酸オセタミビルの脳内濃度が、成熟ラットの約1500倍高くなり、幼若ラットは、血液脳関門が未熟である可能性が示唆されています。従って人間の乳児でもタミフルの投与の安全性を考慮する必要があり、控えたほうがいいのでは・・・との要請がありました(2004年1月)。その後、タミフルを投与された乳児737例に関して、副作用・有害事象の発現状況を調査し検討しています。その結果タミフルとの因果関係が疑われる副作用として、下痢(13例)、嘔吐(5例)、軟便(3例)、低体温(2例)などの症状がみられました。痙攣の発症が3例ありましたが、これはタミフルの副作用とはみなされていません。いずれにせよ重篤な副反応の報告はありません。従って乳幼児のへの投与に関する危険性は高くはないと推測されるが、この報告はあくまでも中間報告で、これからも調査は続ける必要があるとのことです(日本小児科学会)。

〔精神・神経障害〕
2005年11月に、タミフルを服用した10代の患者2人が、異常行動をきたし、死亡していたことが報告されました(1人は車道に走り出て大型トラックにはねられて死亡、もう1人はマンションの9階から転落死)。その他にも1人窓から飛び降りようとしたのを制止して事なきを得た例もあります。服用した中での頻度の関係では本当にごく1部であり、インフルエンザでは、他の感染症に比べて、発熱に伴い譫妄状態が見られることが多いので、このような異常行動が本当にタミフルの副作用なのか、慎重な解明が必要かと思われます。
  その後2005年11月にタミフルを服用した日本人の子供で死亡例が相次いでいると米食品医薬品局(FDA)が報告しています。FDAの報告書によると、2000年以降、日本ではタミフル服用後に子ども12人が死亡しており、内訳は、4人が突然死、4人が心肺停止、意識障害、急性膵炎(すいえん)、肺炎などが1例ずつです。厚生労働省は、タミフル服用後の16歳以下の死亡例を13人と把握し、うち8人について因果関係は否定された例とみています。厚労省は「タミフルとの因果関係が不明な例もあるが、仮に副作用としても、特に多いとは言えない」との立場です。
  輸入販売元の中外製薬などによると、タミフルは毎年約1200万人分が流通し、例年400万人分が使用されずに残る。つまり年間延べ800万人がタミフルを使用している計算です。今回のタミフル服用後の死亡は4年間で12人。一方、インフルエンザ脳症で多い年には100例前後の死亡例があります。タミフル服用で、大半が重症に至らず回復したことを考慮すれば、仮に全症例が副作用だったとしても、極めて低い数字と言えるでしょう。

〔耐性ウイルス〕
耐性ウイルスはすべてA型で、B型では出現は認められていません。耐性を獲得したウイルスは、著しく感染性が低下し、感染部位での増殖、伝播力はきわめて低いと考えられています(マウス、及びフェレットでのデータ)。耐性ウイルスが出現しても、再び発熱したり、重症化する事はなく、1週間程度でウイルスは気道から消失します。耐性ウイルスが周囲の人に感染した例はないとされています。耐性を獲得したウイルスでは、ノイラミニダーゼのアミノ酸変異が認められています。
  子どもに使うと、約3割に薬の効きにくい耐性ウイルスが出現することが、昨年の東大医科学研究所の河岡義裕教授らの研究でわかりました。河岡教授らは、A型インフルエンザに感染した14歳以下の子ども33人を対象に、オセルタミビルを3―5日間投与し、治療前と治療後のウイルスの変化を調べました。その結果、9人のウイルスは治療後、オセルタミビルがウイルスに働く部分の構造が変化しており、いずれも薬が効きにくくなっていることがわかりました。耐性ウイルスは、治療を始めて4―8日後に出現していた。今のところ、耐性ウイルスがどの程度の病原性を持つかなどはわかっていません。これまでオセルタミビルの耐性の出現率は子どもで5%程度と考えられていましたが、河岡教授は「今回の研究は3歳以下の子どもが多く、インフルエンザに生まれて初めて感染した場合、ウイルスが増殖する期間が長く、耐性が出やすくなった可能性がある」としています。
  又、インフルエンザは解熱後もウイルスが残っています。このため解熱直後に、学校や職場に復帰すると感染拡大に繋がる可能性があります。日本臨床内科医会が2003/2004年に96人のインフルエンザ患者を調査した結果では、解熱後1日目ではまだ80%のヒトにウイルスが残っており、3日時点でやっと残存率10%まで下がったということです。

〔新型ウイルスに対する効果〕
新型インフルエンザは鳥インフルエンザのウイルスが変異して生じると予測され、現在のインフルエンザより格段に高い死亡率をもたらす心配があります。鳥と人間のインフルエンザウイルスは増殖の仕組みが似ており、ともにタミフルで抑制できます。新型インフルエンザも同様ならタミフルが効くとの期待があります。死亡率を下げられれば、服用する意味はあります。ただ、新型ウイルスがどう変異するのか予想はつきません。このため厚労省結核感染症課は「本当にタミフルが効くかどうかは分からない。有効な可能性がある手段は準備する、との考えで備蓄を決めた」と説明しています。中国や東南アジアでは鳥インフルエンザが130人に感染し67人が死亡しています。国立感染症研究所の医師によると、タミフルを飲んだ感染者も複数いるが、みな発症後48時間を過ぎた後で、治療効果は判定できないということです。1人の少女から耐性ウイルスも検出されましたが、半量予防的に服薬中のことで高い頻度で耐性ができるのかどうかはまだわからないところです。


インフルエンザは老人や基礎疾患などで体力(免疫力)が低下していなければ、自然治癒することが多い病気なので、インフルエンザに罹った総ての人がタミフルを服用する必要はないでしょう。適切に服用しなければ、耐性ウイルスの問題が生じます。前にも述べましたように、必要ないと感じる事は多いのですが、出さない勇気もかなり要りますね・・・。小さい子供さんの場合は、脳症で死亡する数などは、タミフルのおかげで大幅に減少しています。脳症とまで言わなくとも、高熱のために入院したり、点滴したりする数も本当に少なくなりました。健康な成人に対しては有熱期間をたった1日少なくさせるだけの効果でも、子供は2峰性の発熱があり1週間も高熱が続く場合も多かったので、有熱期間はもっと短くさせられている、と感じます。ただ、今後の新型インフルエンザへのタミフルの効果を期待する為には、今のインフルエンザへのタミフルの使用は罹った人総てにではなく、できるだけ限定した使用でなければならない!とは思っています。

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