インフルエンザワクチン(05/10/30更新)

  2004/05シーズンの最後に、インフルエンザワクチン考として、今後のインフルエンザワクチン接種をどうするかについて述べました。又今年もインフルエンザ予防接種の時期になりました。昨年度はB型中心の流行でワクチンの有効率が非常に悪かったので、今年の接種をどうしようか、迷っておられる方も多いでしょう。私自身も是非打ってください、とは言い難いところもありますが・・・。もう一度インフルエンザワクチンについてお話したいと思います。

〔ワクチンの組成〕  インフルエンザワクチンは不活化ワクチンで、インフルエンザウイルスから免疫(抗体)を作るのに必要な成分を取り出し毒性を無くして作ったものです。ウイルスは毎年変化しながら流行するため、ワクチンも毎年これに対応する株が選定されています。また、毎年変化するため毎年接種しなければなりません。接種により上昇した抗体価の持続は4〜6ヶ月といわれています。ワクチンはA香港型・Aソ連型(Aロシア型)・B型の3種類を含んでいます。ワクチン株は南半球の流行状況からWHOがその年の株を推奨し、多数の国がこれに従って株を決定しています。最近は世界のインフルエンザ情報センターの進歩により、大きくはずれることはありませんが、それでも有効率は成人ではA香港型とAソ連型で70%前後、B型では50%前後と言われています。幼児や高齢者ではこの数値はもっと低くなります。言い換えれば、ワクチンを接種していてもインフルエンザに罹患することは十分にあり得ます。特にB型に対する有効率が低いため、2004/05シーズンでは予防接種を受けたにもかかわらず、発症した症例が多数見られました。

〔接種回数]  不活化ワクチンの免疫方法は1回目の接種で細胞にウイルスを覚えさせること、2回目の接種で覚えていた細胞に抗体を作らせるということです。13歳以上の人は(アメリカでは9歳以上)、1回接種で十分という成績が出ています。諸外国は1回接種ですし、1回接種と2回接種での抗体価上昇の差異はわずかです。年齢の区切りは過去にインフルエンザにかかっているであろう、という年齢のラインです。過去にインフルエンザにかかっていれば、1回の接種で過去に獲得した抗体の値を上昇させることができる、ということです。したがって当院では中学生というラインを引いて、中学生以上は1回接種としています。そして、最近は12歳以下のお子さんも毎年接種をされている方が増えており、追加免疫という意味で1回接種で抗体の上昇は認められますので1回接種で十分だと考えています。インフルエンザウイルスは前述のとおり毎年変化するのと、抗体の持続が短いので終生免疫はできません。1回かかると大人では4〜5年、子供さんでは2年はぐらいはかからないようですが。インフルエンザウイルスは3種あるので、毎年かかったり、同じ年に2回かかる不運な方もありますね・・・。

〔接種対象者〕  インフルエンザに罹患すると入院を必要とする重篤な合併症がもたらされ、更には死亡する可能性の高い人。およびその家族、医療機関、介護施設従事者など。
  (1)65歳以上の高齢者
  (2)6ヶ月〜6歳の乳幼児
  (3)妊婦
  (4)呼吸器系や循環器系に慢性疾患を持つ患者さん
  (5)糖尿病などの慢性代謝性疾患
  (6)慢性腎不全など腎機能異常の患者さん
  (7)免疫低下状態の患者さんなど。
昔の学童対象に行われていた集団接種ではなく、ハイリスク郡への個人接種により健康被害を防ぐことが第1の目標です。集団接種ではインフルエンザの流行そのものは抑えられませんでしたが、インフルエンザにより死亡する老人の数を減らすことはできていますた。アメリカでは65歳以上の高齢者と、6ヶ月〜23ヶ月の乳幼児に対して、公費負担によるインフルエンザワクチン接種が行われています。子供に対する有効率の低いことから、6〜23ヶ月の乳幼児を持つ家族全員に対しても公費負担でワクチン接種を行っている国もあります。

〔効果〕  インフルエンザワクチンの効果に関しては、ワクチン接種をしなかった場合におこる危険性をワクチン接種によってどれくらい減らすことができるか、という相対危険で表すことが合理的であるとされています。有効率70%といいましたが、これは「ワクチン接種者100人のうち70人が発症しない」ということではなく、「ワクチン接種をうけずに発症した人の70%は接種をうけていれば発症を免れた」ということを意味しています。このことが十分理解されていず、受けたらかからない、と思っている人が多いので、ワクチンの効果に対する不信感も多いのだと思われます。インフルエンザの流行時に発熱がみられれば、ワクチンを打っているからインフルエンザではないだろうとは考えず、強くインフルエンザを疑って早めに医療機関を受診して下さい。迅速診断キットが発売され保険適応もありますが、検査して陰性でもインフルエンザである確率は30%くらいあります。むしろ流行時は検査にこだわらず、検査を施行しなくても構わないから、早期の治療開始が重要です。

〔副反応〕  接種部位がだるく感じたり、腫れたりする人はあります。接種回数がふえると多くなる傾向にあります。微熱が出たり、風邪のような症状を訴える方もたまにあります。1971年以前の全粒子ワクチン時代に問題となった発熱や神経系の副反応は大幅に減少しています。しかし、約100万人に1人の割合でギランバレー症候群などの重篤な神経系の健康被害が生じ、死亡例はないものの後遺症を残す例も報告されています。日本脳炎ワクチンで問題になった、ADEM(急性散在性脳脊髄炎)も頻度としては日本脳炎ほど多くは無いですが、原因になるワクチンとしては日本脳炎に次ぐものになります。ワクチンは健康被害を防ぐ目的で接種されるのであり、これによって建康被害が生じる事は大変残念なことです。これらの原因については良くわかっていません。一方、まれにおこる建康被害が強調され過ぎて、ワクチンの有効性に対する一般の理解が後退し、ワクチンの恩恵を受けられなくなることも逆に残念なことです。

  今年は鳥インフルエンザがアジア以外の多くの国で報告されています。鶏以外の種々の鳥にも見つかっています。新型インフルエンザに変異するのはいつの事になるでしょうか?新しいウイルスに対するワクチンは製造に6ヶ月はかかる、ということです。新型インフルエンザが発生すれば、ワクチン接種は積極的に進めるべきだとは思いますが、残念ながらその年には間に合いません!ヨーロッパでは今、パニックになっていて、タミフルの国家備蓄が急ピッチで進んでいるようですが、言い出した日本ではまだまだ備蓄数は足りていないようです。

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