注意欠陥・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:ADHD)
(05/9/20更新

  子供は元来、元気でよく動くものですし、殆どのお子さんは成長とともに落ち着いてくるのですが、年齢を考慮した場合、同じ年齢の子供と比べるとどうも落ち着きが無い、よく動く、我慢がきかないなどが、明らかに度を越して心配の種になるお子さんがいます。最近はこういう状態をADHDという疾患として認識されるようになりました。名前をご存知の方もふえてきているでしょうか?

〔症状〕  「多動」「不注意」「衝動性」を主徴とし、7歳までに発症します。小学生の5%くらいと推定されていて、男子は女子の10倍です。
具体的な症状は
多動:着席できない、足を落ち着き無く動かす、そわそわと手を動かす、おしゃべりが止まらない、絶えず動き回っていたり、過度に走り回ったりする、など。
注意:気がちりやすい、人の話を聞いていない、すぐに注意がそれてしまう、忘れ物をしやすい、順序立てた行動が苦手、ケアレスミスが多い、指示に従わず、言われたことをやり遂げられない、など。
衝動性:順番が待てない、他人の行動に割り込む、質問が終わるのを待たずに答えを口走る、など。
その他、極端な不器用さなどが認められたりします。普通ADHDの子供は攻撃的ではありません。
特定の興味あることを除けば、注意力の欠如や持続力の不足は続き、知的な遅れは殆ど無いのに学業成績は悪く、科目間のバラツキが大きいのも特徴です。チック症状や強迫症状が随伴することもあります。

〔原因〕  脳炎後遺症、極端な栄養障害、頭部外傷後遺症、一酸化炭素中毒、鉛の慢性中毒など、生後に罹患した脳の機能障害が原因と考えられる症例があり、また低体重出生、新生児仮死、重症黄疸などの周産期の異常がなんらかの関与をしているとされる場合もありますが、原因の特定ができないものが多いです。その他、ドーパミンをはじめとする脳内アミンなど、生理活性物質の異常が多動や集中力の欠如に関係していると指摘されていますが、原時点でははっきりとした原因は分かっていません。遺伝する可能性もあります。

〔診断〕  診断は症状の数、頻度、重症度に基づいて行います。症状が少なくとも2つの異なる状況下(普通は家庭と学校)で現れていなければなりません。ADHDを診断できる検査はありません。

〔治療〕  ADHDの影響を最小限にとどめる為には、スケジュールに基づいた生活、日課、学校内での援助、このような子供に合わせ修正した育児技術などが必要になります。その子供が攻撃的ではなく、家庭環境も安定していて家族が協力的な場合は、薬剤による治療だけで効果があることがあります。
中枢神経刺激薬が多動や集中力の改善に有効であることが知られており、メチルフェニデート(リタリン)が最もよく処方されます。不眠症、食欲減退、抑うつ、頭痛などの副作用がありますが、殆どの子供では食欲がなくなる以外の副作用はみられないようです。長期間大量に服用する場合は、子供の成長を遅くする場合がありますので、体重増加などの監視が必要になります。注意力散漫や行動面での症状については、その他の薬剤を使用することもあります。

〔経過の見通し〕  ADHDの子供の多くは成長後も注意力散漫は改善されませんが、成長するに従って衝動的な面と多動性はやや治まる傾向があります。患者の7〜8割は大きくなると普通の人と変わらなくなりますが、2〜3割は治らないようです。ADHDの子供は周りから怒られたり、怠け者などと言われるため自己評価が下がっていたり、適切な社会行動をなかなか身につけられないというような問題点もあります。重要視すべきはADHDの子供の多くはものを作り出すのに優れた成人になるということ、学校よりも働く環境のほうになじみやすいことです。良い点を伸ばすように褒めることを心がけることが大切です。


ADHDと診断される子供はますます増えています。しかし、誤って診断された子供も数多くいるのではないか、という懸念も広がっています。子供の活動レベルが異常に高いかどうかを判断する時に、判断する人にとって許容できる範囲かどうかということで、差が出ないようにしないといけないでしょう。最近はADHDの認識も広がっていますので、教育現場でもこういう子供たちに合わせた教育方針が打ち出されてきています。正しく診断して、良い方向に導いていけるように皆の努力が必要になりますね。
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