西ナイル熱、西ナイル脳炎(05/6/20更新

  昨年夏にアメリカから帰国した女性がこの西ナイル熱の疑いあり、ということで世間を賑わしたので、この病名をご存知の方もおられるでしょうか?この病気は非常に日本脳炎と似ています。世界的な分布地域と、中間宿主が日本脳炎とは少し違います。今週はこのお話をします。

[原因]  ウエストナイルウイルス。日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルスの仲間です。1937年にアフリカのウガンダの西ナイル地方の女性発熱患者の血液から初めて分離された為、この名が付けられました。アフリカ、東欧、西アジア、中東などに分布しています。1999年にニューヨークを中心に西ナイルウイルス感染の多発が見られるまで、アメリカ大陸での報告はありませんでした。これは感染している蚊あるいは動物が飛行機でニューヨークに渡ってきて広がっていったのではないかと言われています。

[感染経路]  西ナイルウイルスに感染した蚊が、人の血を吸うことによって、血を吸われた人が西ナイルウイルスに感染します。人から人へは感染しません。感染する動物は鳥や馬、鳥と蚊の間で感染環が維持されます。アメリカカラスはこのウイルスに感染すると致死率が高く、アメリカ合衆国では、西ナイルウイルスの蔓延状況を知る為、死亡したカラスの調査も行われています。発症時期は蚊の活動時期と一致し、4〜10月、特に7〜9月がピークとなります。

[症状]  潜伏期間は3〜15日。感染例の約80%は不顕性感染(感染しても症状が出ない)で終わります。症状は、発熱、頭痛、背部痛、筋肉痛、筋力低下、食欲不振、発疹、リンパ節腫脹などで、発症した場合の多くは短期間(約1週間)で回復します。感染者の1%未満に髄膜炎・脳炎症状が見られ、致死率は重症患者の3〜5%(主に高齢者)とされています。

[治療]  特異的な抗ウイルス治療薬は無く、対症療法を行うことになります。

[予防]  ワクチンの研究は進んでおり、アメリカよりも日本の長崎大学の研究グループの方が、新しい日本脳炎ワクチンの製造技術を応用し、安全性も高く、実用化に最も近いと、期待されています。又、日本脳炎ウイルスとの交叉反応があるため、動物実験では、日本脳炎ワクチンが西ナイルウイルス感染を防ぐ可能性を示唆する報告もみられています。


西ナイルウイルスと日本脳炎ウイルスの分布図
赤:西ナイルウイルス(アメリカ大陸は1999年以降)
緑:日本脳炎ウイルス インド西部は両方のウイルスが混在する。


  日本脳炎ウイルス、西ナイルウイルスの属するフラビウイルス群には脳炎を起こすウイルスが多く、地理的分布がはっきり分かれていました。日本脳炎ウイルスが日本から朝鮮、中国、東南アジア、インドまで。西ナイルウイルスがインドの西半分から、中近東、ヨーロッパ、アフリカです(上図参照)。他にセントルイス脳炎ウイルスがアメリカ大陸、オーストラリア脳炎ウイルスとクンジンウイルスがオーストラリア、ロシオ脳炎ウイルスがブラジルです。ところが1999年にアメリカ大陸で初めて西ナイルウイルス感染がみられ驚かれました。飛行機が運んだのでしょうが・・・。渡米される方のご心配も大きいですが、今後日本にも西ナイルウイルス感染が輸入される可能性は非常に高いですね。日本脳炎ワクチンがある程度予防できるとの示唆もありますが、ワクチンは中止され・・・、日本脳炎流行地域への渡航でなければ、日本脳炎ワクチンが絶対効果があるともいえないので、少し困った状況です。

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