インフルエンザ脳症

 インフルエンザ脳症は小さい子供さんがインフルエンザに罹ったときに発病する最も重い合併症です。1997/1998シーズンのインフルエンザ大流行時に推定約100人の死亡者が出た為初めて注目され、研究班ができ全国調査が始まりました。毎年数百人が発病し、死亡率は約30%、25%の子供に後遺症が残ります。こうしたことから社会的にも大きな関心を集めています。

[病態] 脳炎とはウイルスが直接脳に入って増殖し炎症を起こすものですが、脳症とは、脳の中にウイルスも炎症細胞も見られないのに、脳が腫れ、頭の中の圧力が高まり、このため脳全体の機能が低下してきて意識障害を起こすものです。

[原因] インフルエンザ脳症は日本をはじめ、東アジアに特有の病態で、欧米ではあまり見られません。幼児期という年齢と、人種で起こりやすいということは明らかです。が、何故かということは分かっていません。ある種の解熱剤(ボルタレン、ポンタール)を服用するとインフルエンザ脳症の死亡率が上昇することは分かっています。障害を受けた血管内皮細胞等が障害から回復するのを、これ等の薬剤が妨げてしまうことによるのではないかとの仮説が現在検証されつつあります。初めてインフルエンザに罹ったときになりやすいといわれています。

[統計] 1年に100〜300人の子供がかかる。A香港型の流行時に多発する。死亡率は30%。過去2年間は15%に減少。後遺症は約25%にみられる。年齢では1歳をピークとして、幼児期に最も多く発生しています。男女差はありません。

[症状] 意識障害の頻度が最も高いです。ついでけいれん、麻痺(手足が動かない)、嘔吐、異常行動といったものがみられます。インフルエンザの発熱から数時間〜1日と、神経症状が出るまでの期間が短いのが特徴です。けいれんが、脳症によるものか、熱性けいれんなのかは、専門家でもすぐに区別はつかないこともあるほど難しいので、安易な判断は禁物ですが、注意すべき目安は次のとおりです。けいれんがとまったのに意識がしっかり戻らないとき。15〜20分以上けいれんが止まらなかったとき。けいれんの前後に異常な言動が見られたとき。異常行動についても、子供は脳症でなくとも高熱そのもののために異常行動を起こすことは珍しくありません。この状態を「熱せんもう」といいます。この違いは充分分かっていませんが、異常行動が長く続くときや、痙攣を伴った場合は要注意です。

[対策] インフルエンザの予防接種の効果に関しては次回に詳しく述べます。

[治療] インフルエンザの治療薬(タミフル)は1歳以上の子供のみに使うようにようにという注意事項が喚起されました。これはアメリカの動物実験で、脳内への薬剤などのブロック機構が未発達の幼若ラットが、大量(通常使用の500倍)の薬剤の暴露により死亡例がでたことによります。これにより、普通の(!)インフルエンザの状態では、1歳未満の乳児に対しては抗インフルエンザ薬は使いにくいですが、脳症などで命にかかわる場合は、例外になると思います。1歳未満の脳症は統計的に非常に少ないです。インフルエンザ脳症が疑われる場合は出来るだけ速やかに重症の小児の患者さんを診察できる施設での入院治療が必要になります。

 インフルエンザが怖いものだという意識は、この脳症があるせいだと思いますが、実際の罹患率は本当に少ないものです。インフルエンザの流行る時期に高熱を出したからといって、それだけで夜中にあわてて病院に行く必要はありません。お子さんの状態をしっかり見て判断して下さい。不安な時は、いつでもすぐ相談して下さい。

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