厚生労働省は19日、新型インフルエンザについての運用指針を改めて「原則全ての医療機関で患者の診療を行う」ことを決めました。未だに患者発生はゼロにはならない毎日ではありますが、大阪、神戸での新型インフルエンザの症状がまとめられ、今までの季節性インフルエンと変わらないことがはっきりしたからだと思われます。今後は集団発生しても、全例には遺伝子検査は行われないようです。今週は新型インフルエンザの症状のまとめを転記します。

[臨症像]
1)大阪府内A中学・高等学校の生徒1934名、職員143名において、2009年6月1日までに新型インフルエンザと確定診断された105名に対して調査を行いました。
38℃以上の発熱は90%近くと最も高く、急性呼吸器症状の中では咳が80%を超えて高い頻度を示しています。その他の急性呼吸器症状である咽頭痛、熱感・悪寒、鼻汁・鼻閉も60%前後の患者にみられています。下痢は19.7%でした。これは、症例数の増加により、新型インフルエンザ発生患者における下痢の頻度が米国等の報告(Emergence
of a Novel Swine-Origin Influenza A (H1N1) Virus in Humans, New England Journal
of Medicne:http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0903810)に近づいたとも考えられますが、今回新たに加えられた調査結果の中には、下痢の判定基準について統一されていないものも含まれている可能性があり、今後更に検討を要すると思われます。ほとんどすべての症例が季節性インフルエンザに類似した臨床像を呈しており、重篤な状態となった患者はありませんでした。また、インフルエンザの典型的な症状である突然の高熱(38℃以上)で発症する例が多いものの、全ての発生例で高熱をきたすわけではなく、咳や咽頭痛等の急性呼吸器症状や、下痢等の症状が先行する場合もみられました。

2)大阪府八尾市内に位置する市立の小学校で、生徒数は624名であるB小学校の生徒で、2009年5月18日までに新型インフルエンザと確定診断された5名に対して調査を行いました。
小学生の集団発生は現時点では日本国内ではまだ少ないです。咳、咽頭痛、熱感・悪寒は全員が経験していました。全身倦怠感は80%、頭痛80%、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、関節痛はそれぞれ60%に認められました。下痢、腹痛、嘔吐等の消化器症状は認められませんでした。調査対象者数は5名と少ないものの、重篤な状態となった患者はなく、診断・治療後には比較的速やかに解熱していました。また、2名は急性呼吸器症状が数日間先行した後に38℃以上の高熱を呈しました。

3)神戸市における新型インフルエンザの臨床像のまとめ
入院患者計49例に対して聞き取り調査を施行し、年齢中央値は17歳(5〜60歳)、79.6%が高校生であり、今回の感染の中心が高校生であったことが示唆されました。男女比は1:1.1(23例:26例)。基礎疾患について呼吸器疾患として気管支喘息を挙げた者が6例(12.2%)、アトピー性皮膚炎を挙げたものが2例(4.1%)、アレルギー性鼻炎を挙げた者が1例(2.0%)ありました。糖尿病、心疾患、免疫不全、悪性腫瘍などの背景を持つ者はいませんでした。26例の女性の中で、妊娠の可能性があると答えた者はいませんでした。
何らかの症状を呈してから入院するまでの期間は0〜7日(中央値 1日)。神経学的症状や異常行動を認めた者はいませんでした。

それぞれの有症状期間に関しては、上気道症状、特に咽頭痛、咳は中央値が4日と38度以上の発熱に比べて長かったです。一方、消化器症状は38度以上の発熱に比べ短かったです。但し退院時に存在した症状についてはその後消失日について聞き取りが出来ておらず、有症状期間の長い者についての情報が一部抜けています。そのため最大値、中央値が過小評価されている可能性があります。

咳、咽頭痛は発熱より先行して認められる傾向がありました。鼻汁・鼻閉は発熱出現日及びその翌日に多かったですが1週間程度前より発症している例もありました。頭痛、筋肉痛・関節痛は発熱と同じ日に出現する傾向がありました。消化器症状に関しては、嘔気は発熱出現日及び翌日に多かったですが、嘔吐、下痢に関しては分散していました。本情報はあくまで38度以上の発熱がみられた日を中心に臨床症状を追ったもので、ウイルスへの曝露や感染の成立および発症などを示しえるものではないことに注意してください。

新型インフルエンザ陽性と診断された方の、このような臨床像の聞き取りを行うことは、かなりの時間と労力が必要であったと思います。おかげで症状が明らかになり、季節性インフルエンザと鑑別はできない状態であるということがはっきりわかったのですが・・・。
この秋の流行では発熱外来のみが対応するわけではなくなりました。今までも勿論小児科では発熱の患者さんは普通に診ていた訳ではありますが。インフルエンザA型と判定されても、その後の詳しい検査は全例に行われないということになりますが、最初の集団発生例が新型と診断されれば、後は殆どのA型を新型と判断して対処、ということになるでしょうか・・・。 |