2008年度インフルエンザ情報 No.7 (09/2/16更新)

  インフルエンザもやっと下火にはなってきていますが、最近、インフルエンザの薬、タミフルに対する耐性菌が問題になっています。今週は少しこのことに対して触れたいと思います。

  2007年11月頃から、ノイラミニダーゼ(NA)蛋白質の275番目のアミノ酸がヒスチジンからチロシン(H275Y*)に置換し、オセルタミビルに対して強い耐性となるA/H1N1亜型インフルエンザウイルスが、ノルウェーの67%を筆頭に、EU諸国全体では20%以上の高頻度で検出されるようになりました。このため、WHOグローバルインフルエンザサーベイランスネットワークでは、全世界的なNA阻害剤(NAI)耐性株サーベイランスを強化し、各国における耐性株出現状況を報告するように要請しました。その結果、2008年4月〜10月現在での世界全体の耐性菌の出現頻度は39%であり、2007年後半〜今年3月までの16%を大きく上回り、南半球諸国を含めて世界的に耐性株が広がり始めています。特に、セネガル、南アフリカではA/H1N1分離株の100%が耐性であり、アフリカ地域全体でも88%が耐性株となっています。これら耐性株はオセルタミビルを服用していない患者から分離されており、通常の病原性をもった市中流行株として人々の間に広がっており、インフルエンザ対策上大きな問題となっています。
  一方、わが国は世界のオセルタミビル生産量の70%以上を臨床現場で使用していることから、市中流行の耐性株に加えて、薬剤の選択圧による耐性株の高頻度出現が危惧され、世界中がわが国における耐性株の発生動向を注目しています。このような背景から、国立感染症研究所(感染研)では地方衛生研究所(地研)の協力を得て、2007/08シーズンに国内で分離されたA/H1N1株に対する耐性株緊急サーベイランスを実施することとしました。
  2007/08シーズンA/H1N1分離株に対する今回の薬剤耐性株緊急サーベイランスにより、わが国での耐性株の発生頻度は海外諸国に比べて低く、今のところEU諸国、アフリカ諸国、豪州のような深刻な状態になっていない。また、A/H3N2およびB型インフルエンザウイルスに対する耐性株は確認されておらず、今のところ国内におけるオセルタミビルによるインフルエンザの治療方針に大きな影響はないと思われました。また、今回分離された国内耐性株は今季のワクチン株A/ブリスベン/59/2007に遺伝的にも抗原的にも類似しているため、ワクチンは有効であると考えられます。これに加えて、2株の例外はあるが、耐性株のほとんどすべてはザナミビルに対しては感受性であることから、ザナミビルによる治療も有効であると思われます。

  耐性株の大半はオセルタミビルが使用されていない地域で発生しており、またオセルタミビルを服用していない患者から分離されているので、タミフルの使用によって耐性ウイルスが選択されて流行しているわけではありません。病原性も通常のA/H1N1流行株とは変わらず、臨床的にはノルウェーから肺炎や副鼻腔炎の合併が多い傾向が示唆されていますが、特に重篤な症状を引き起こすとの報告もありません。
  インフルエンザ発生動向調査事業によって、今シーズンに各地研で分離されたA/H1N1株についてNA遺伝子の塩基配列を決定し、H275Yの耐性マーカーの有無を指標とした遺伝子解析を中心に検討しました。その結果、A/H1N1の総解析数52株中51株にH275Y耐性マーカーが同定され、耐性株の発生頻度は98%でありました。現時点での解析数は限られていますが、地域的には本州を中心に18の道府県で耐性ウイルスが検出されており、各地におけるA/H1N1分離株のほぼ100%がオセルタミビル耐性でありました。
  これに加えて、各地研および関連施設からも同様の解析により耐性株の分離報告を受けています。これによると、青森県で12/12株(耐性株数/解析株数)、新潟県で2/2株、仙台医療センターで9/9株、仙台市で10/10株、東京都で13/13株、堺市で7/7株、和歌山県で1/1株、兵庫県で2/2株、福岡県で3/3株、宮崎県で10/10株と、各地で高頻度に耐性株が検出されています。一方、全体におけるインフルエンザウイルス分離株の中でA/H1N1が約1/3を占めているので、オセルタミビル耐性のA/H1N1株は全国的に広く蔓延していることが示唆されています。

  昨シーズンに国内で分離されたオセルタミビル耐性A/H1N1株の発生頻度は2.6%と、諸外国に比べて極めて低かったです。しかし、今シーズンに入り、オセルタミビル耐性A/H1N1株が相次いで分離されています。現時点での報告は18道府県からで、頻度は解析が終わった52株のA/H1N1株のうち51株(98%)が耐性でした。わが国でも諸外国と同様に、流行中のA/H1N1ウイルスのほとんどすべてがオセルタミビル耐性であり、これが全国的に蔓延していることが推測されます。
  現時点(1月15日現在)でのインフルエンザウイルスの分離・検出状況は、A/H3N2が45%、A/H1N1が36%、B型が19%と、3種類のウイルスの混合流行ですが、A型ウイルスでは2つの亜型がほぼ同じ規模で流行しています。まだ流行の初期段階で分離ウイルス数が少ないので、全国レベルで予測は困難ですが、オセルタミビル耐性A/H1N1株が全国的規模に分散していること、全体のインフルエンザ分離ウイルス数の約1/3を占めていることから、今後本格的な流行を迎えると、全国各地でもオセルタミビル耐性A/H1N1ウイルスが高頻度に検出されると予想されます。
  臨床現場では、インフルエンザの診断に迅速診断キットが頻用されており、その結果にもとづいて抗インフルエンザウイルス薬の処方がされています。迅速診断キットでは、A型かB型かの鑑別は可能ですが、A/H1かA/H3かの亜型の識別は不可能です。今シーズンに流行しているA/H3N2およびB型ウイルスはオセルタミビルとザナミビルの両薬剤に対して感受性ですが、A/H1N1ウイルスはほぼ100%がオセルタミビル耐性となっています。すなわち、A型インフルエンザとの型診断ができても、このA型ウイルスがオセルタミビルに感受性なのか耐性なのかを判別できません!A型ウイルスの約半数をA/H1N1が占めつつある現状では、今後、臨床現場では抗インフルエンザウイルス薬の選択などの治療戦略に大きな混乱が起こることが心配されます。
  このような状況を踏まえて、米疾病対策センター(CDC)が、暫定的ながら、今冬における抗インフルエンザ薬の選択方針についての勧告を医師向けに出しています。抗インフルエンザウイルス薬の選択には、地域でのインフルエンザ流行ウイルスの流行状況を十分に考慮することが強調されています。A/H3N2やB型が流行の主流なのか、A/H1N1が多数を占めるのかの流行状況によって、オセルタミビルかザナミビルかの選択をするとの実践的な治療戦略です。
  わが国では、900万人分のオセルタミビルと300万人分のザナミビルが今シーズンに向けて準備されており、今後の流行動向の推移や臨床所見などを見ながら逐次適切な指針が出される予定です。従って、今シーズンのインフルエンザサーベイランスは、わが国のインフルエンザ対策にとって極めて重要な役割をもつことになります。A/H1N1に対する耐性株サーベイランスを全国レベルで実施するだけでなく、A/H3N2およびB型株を含めた通常のウイルス株サーベイランスを強化・継続していく必要があります。さらに、これらのサーベイランスから得られる情報は、随時更新されるとともに、速やかに臨床現場に還元されて治療方針の選択に役立てることが望まれます。

  今シーズンはワクチンをうっている人の中で、感染している方が異常に多いと感じます。それだけワクチンをうたれている人の数が増えている、ということなのでしょうが・・・。国立感染症情報センターの発表では、今年のワクチン株と流行株の間では、上述のように変異は少ない、ということですが、神戸市などの報告を見ると、AH1型に対しては変異がみられる、とのことです。ということは、合っていない、ということですが、実際のところはどうなのでしょうか?昨年はワクチン株と流行株はかなり離れていたのですが、大流行はみられていません。流行前の抗体保有状況を見てみても、抗体を持っている方が比較的多いようで、今年は大流行しないような印象ではありましたが・・・。

2008年度調査における年齢群別HI抗体保有状況
1)A/Brisbane(ブリスベン)/59/2007[A/H1N1亜型]:図1上段

  本株は、2007/08シーズンのA/Solomon Islands(ソロモン諸島)/3/2006から2008/09シーズンに変更となった株です。この株に対する抗体保有率は、5〜19歳の各年齢群では68〜75%と高く、20-24歳群では53%と比較的高かいでした。しかし、その他の年齢群では40%未満であり、中でも55-59歳群および60-64歳群では25%未満でした。すべての年齢における平均抗体保有率は43%であり、調査した4株中では最も高かったです。
2)A/Uruguay(ウルグアイ)/716/2007[A/H3N2亜型]:図1下段
  本株は、2006/07シーズンから2シーズン続いてワクチン株であったA/Hiroshima(広島)/52/2005から、2008/09シーズンに変更となった株であす。この株に対する抗体保有率は、5-9歳群(48%)および10-14歳群(42%)以外の年齢群では40%未満でした。さらに15-19歳群(37%)を除く年齢群では25%未満であり、中でも30代および50代の各年齢では10%未満と低かったです。また、平均抗体保有率は、調査した4株中では最も低く21%でした。

  実際に治療をして感じることとしては、確かに、タミフルを服用していても、インフルンザ特有の二峰性発熱の後半の熱が抑えられていないのかな?と感じる例がパラパラみられました。
  耐性菌に対しては上述の様に、タミフルを処方していない欧米での報告が最初で、今年に入ってから日本各地でも耐性菌の報告が見られだしたため、海外の耐性菌の持ち込みか・・・、という考え方もあります。試験管内のデータと実際のウイルスの動きに、少し違いもあるかも分かりません。この辺りのことは、ワクチンの問題も含めて、又調べてみたいと思います。地域の小学校の保護者の方々には、またアンケート等のお願いをするかも分かりませんので、よろしくご協力のほどお願い申し上げます。

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