● 生活習慣病について

健康で長生きする"Succsesful Aging"を目指した治療

東京大学大学院医学系研究科
内科学教授 藤田敏郎氏(講演要旨:文責 山内 知)

【心筋梗塞の発症率が高いシンドロームXという概念】
 Metabolic Syndromeという概念が話題になっている。シンドロームXとも呼ぶが、内臓肥満、中性脂肪高値、低HDL血症、耐糖能異常、高血圧を併せ持つ病態で、インスリン抵抗性の関与が指摘されており、心血管イベントのリスクが高い。PROCAM Studyによれば、心筋梗塞の発症率は、高血圧があると約2倍、糖尿病だけでも約2倍だが、高血圧と糖尿病を両方合併すると8倍になる。さらに高血圧、糖尿病、高脂血症が合併すると20倍になる。以前は高血圧だけをもつ人が多かったが、ライフスタイルの変化により2000年に出されたFramingham Studyでは、高コレステロール血症、高血圧、低HDL血症、糖尿病の合併が増加している。
【食事や運動よりもストレスが高血圧に要因する】
 高血圧の非薬物療法として、食事療法、運動療法、心療内科的アプローチがある。特に食事療法が重要で最も重要なのは食塩制限であるが、最近話題になっているのが、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)である。また、カロリー制限も重要で高血圧の患者さんの7割が肥満だと欧米では言われているが、肥満高血圧では塩分制限以上にカロリー制限が推奨されている。運動そのもので体重減少がみられなくても血圧は下がり、脂質代謝、糖質代謝に好影響を与える。ストレスに関しては高血圧のガイドラインに入っていない。しかし多くの専門家はストレスが食事や運動に勝るとも劣らない重要な要因と考えている。

【KやMgを豊富に摂っている地域では高血圧の頻度が少ない】
 まず塩分と高血圧との関係であるが、50数年前の秋田県は、1日30gの塩を摂っており、40%が高血圧になり脳出血が多発していた。広島は12〜13gで高血圧は20%、アメリカは10gで10%。エスキモーはほとんど塩を摂らず高血圧はいない。すなわち塩分摂取量と高血圧には極めて良い相関がある。しかしその後、塩分摂取が多くても必ずしも高血圧が多くない地方も見つかってきた。KやMgを豊富に摂っている地域では、塩分摂取が多くても高血圧の頻度が少ない。とはいうものの塩を全く摂らないところでは高血圧はない。現在でもそういう人種は存在し、エスキモー人のみならず、ピグミー族、ケニアの遊牧民、そしてオーストラリアの原住民、ニューギニア高知民族、最も有名なのがブラジルの奥地に住んでいるヤノマモインディアンであり、食塩の摂取量が1日0. 5gというほとんど無塩食である。塩分摂取を3g以下にすると極めて効果的に血圧が低下し、6g以下でもかなり下がる。ただ、塩分に対する感受性に個人差がある。30名に1週間の減塩食の後、15gの食塩負荷をおこない、再び減塩食を与える。すると半数は、減塩で血圧が下降し塩を負荷すると上がる。そしてラシックスを投与すると下がる。極めて塩に敏感に反応する(食塩感受性高血圧)。残りの15名は減塩でも血圧が下がらないし、また塩を負荷しても上がらない。利尿薬抵抗性である(食塩非感受性高血圧)。減塩が有効なのは食塩感受性であって、非感受性にはあまり効果がない。食塩感受性の人にこそ積極的な減塩を勧めるべきで、将来は遺伝子診断、Tailor Made Medicineへと向かうべきである。非感受性群や健康人では、すみやかに尿の中に塩が排泄される。食塩感受性群では腎機能は正常であり、原因は不明だが塩の排泄が悪い。神経や内分泌因子の関与が疑われる。食塩感受性は遺伝によって受け継がれていくが、腎機能が悪くなれば、Na(ナトリウム)の排泄が低下し食塩感受性になる。加齢によって腎機能は低下するし、糖尿病や高血圧はさらに腎機能を低下させる。高齢者では塩を制限すると血圧が下がるが、Naの保持能力も低下しており極めて安全域が狭く、厳格な減塩は危険である。また、高齢者ではKの保持能も低下している。


【塩による血圧上昇をKが抑制した】
Kに話を移す。ヤノマモインディアンは、Naの摂取量はアメリカ人の10分の1であるが、Kの摂取量はアメリカ人の3倍である。木の実やジャガイモなどの野菜を食べているのでKが非常に多い。塩が少ないとともにKが多いということが高血圧を防いでいるのではないかと考えられる。以前に私どもは、K負荷の試験を行った。まず減塩のあと食塩負荷を1週間行ったところ、食塩感受性高血圧では、収縮期、拡張期とも血圧が上昇する。しかし塩とともにKを投与すると上昇しない。塩による血圧上昇をKが抑制したということになる。
【アメリカでは利尿薬が高齢高血圧のスタンダードだった】
Kにはナトリウム利尿作用がある。SHIEP試験(1991年)は高齢者の高血圧で最も有名なもので利尿薬が脳卒中を抑制したことから、アメリカでは利尿薬が高齢者の高血圧のゴールデンスタンダードになった。これを裏付けするように、最近JAMAに掲載されたALLHAT試験というのがある。アムロジピン(ノルバスク・アムロジン)もリシノプリル(ロンゲス・ゼストリル等)も効果はあるが、やはり利尿薬が有効ということになった。アメリカでは第7次のガイドラインが出ようとしているが、利尿薬が第1選択になると聞いている。しかしながらクロルタリドン(ハイグロトン)群はアムロジピン、リシノプリル群に比べて低K血症が多く、私は利尿薬は半錠あるいは半錠を1日おきで十分と考えている。ALLHATではKが不足して、その結果糖尿病になるのが32.7%あり、アムロジピンやリシノプリルよりも利尿薬群に多い。ALLHATの期間5年ではイベントには関係なかったが、将来この糖尿病がどのように影響してくるかという危惧はある。

【日本人は原始人の食事を見習わなくてはならない】
前述のSHIEP試験を10年後に見直すと、利尿薬は確かに脳卒中を減らすが、Kが3.5以下の群では脳卒中が増えている。2群間に血圧の差はなく、血圧以外の因子で脳卒中が起きている。Kには降圧作用があると言ったが、直接の臓器保護作用もあることになる。Kはインスリン抵抗性を改善する。食塩感受性のネズミに塩を負荷すると、酸化ストレスのマーカーが上がってくる。ところがKをやると正常化する。塩には酸化ストレスの作用があり、Kには抗酸化ストレスの作用がある。インスリン抵抗性と食塩感受性、糖尿病と高血圧はリンクしている。高インスリン血症になると、交感神経系が緊張し、食塩感受性が起こり、さらにインスリン抵抗性を起こす。DASH試験によりKが血圧を下げることが証明され、次のガイドラインにはKが入るということを聞いている。日本人はNa/K比が欧米に比べて高い。少し原始人の食事を見習わなければいけないということになる。
【文明の進歩で大きく変わったのは食塩とストレス】
ストレスが循環器に関係するというのは、多くの循環器の医者が考えていたが、再現性に乏しいことからエビデンスがない。ホワイトカラーの男性はブルーカラーの男性よりも冠動脈疾患が2倍多い。夫に死別した女性は、夫が健在な女性よりも心筋梗塞の発症が2倍多くみられる。自分で測れば正常なのが、医師が測れば上がる白衣高血圧。これは確実にストレスによる高血圧である。イヌは高血圧を作りにくい動物だが、イヌにストレス負荷だけ、あるいは食塩負荷だけを加えても高血圧にはならないが、両者同時に負荷すると慢性的に高血圧を作ることが出来たという報告がある。文明の進歩で大きく変わったのは食塩とストレスと言われているが、両者には相乗効果がある。私どもは、塩に敏感なネズミに対してストレスをかける試験をした。食塩感受性のネズミにストレス負荷をかけると、腎臓の交感神経が興奮し尿中のNa量が減る。正常のネズミにストレスをかけても、腎臓の交感神経活動は興奮しないし尿中のNa量も減らない。食塩感受性であってもKを補給しておくと、ストレスを与えても尿中のNa量、尿量ともに減少しない。Kは塩に打ち勝つとともにストレスにも打ち勝つ。人に対しておこなった試験もある。精神的ストレスということでIQテストを行うと高血圧の人は、腎の交感神経活動が亢進して腎血流が減少する。正常血圧群では2つに分かれて、高血圧の家族歴のない人はまったく平気だが、本人がたとえ正常血圧であっても、高血圧の遺伝子を持っている人では腎血流が低下する。つまりストレスに感受性であり、ストレス感受性というのは遺伝によって起こると言えるわけである。少しまとめてみると、高血圧の発症メカニズムのうえで、ストレスと食塩というこの2大環境因子が大変危険である。ストレスが加わると、腎の交感神経活動が興奮してNaの排泄が低下する。そして塩が加わると、Naの貯留が起こって高血圧になるという考えである。さらにストレスあるいは塩に対する感受性が個人個人で異なり、現在遺伝子研究が行われつつある。

【Mgが不足すると細胞内のCaが増加し、血管収縮や不整脈を起こす】
 産科の子癇の治療にMgが使われるが、Mgについて述べる。動脈に緩序にMgを投与すると血管拡張が起こるが、Caを同時に投与すると血管は拡張しない。血管の平滑筋細胞の細胞膜にCaチャンネルがある。Caが細胞内に流入すると血管が収縮し、流出すると血管拡張が起こる。これをレギュレートするのがCaチャンネルで、またそれをレギュレートしているのがMgである。Mgが不足すると細胞内のCaが増加し、血管収縮や不整脈を起こす。Mgが十分にあると血管拡張が起こる。アメリカではMgのことをNature's Calcium Channel Blockerと呼んでいる。豆腐にMgが多く含まれるが、ぜひMgを摂っていただきたい。Mgは血管拡張薬、天然のCa拮抗薬である。6年前に、Ca拮抗薬服薬者に心筋梗塞が多いという成績が出た。多くの試験が追試されたが、短時間作用型のCa拮抗薬に限った話のようである。ニフェジピン(アダラート等)を投与すると急激に血圧が下がり、反射性の交感神経亢進が起こり、血小板の活性化や血管収縮により心筋梗塞の危険が増す。Caチャンネルには、L型の平滑筋細胞のCaチャンネルとともに、神経にもN型のCaチャンネルがある。ニフェジピンは血管を開くために開発されたので、L型のCaチャンネルに特異的に効く。Ca拮抗薬は血管を拡張するが反射性の交感神経の亢進を起こす。しかしMgをやっておけばN型のCaチャンネルを抑制するので反射性の交感神経緊張を抑制する。Ca拮抗薬はほとんどがL型抑制のみだがシルニジピン(アテレック、シナロング、シスカード)というのはN型も抑制する。朝方に交感神経が緊張し心拍数も血圧も上がってきて、脳卒中が多い。勤労者では月曜日に交感神経が優位になり心筋梗塞が多い。最近では心拍数が動脈硬化の指標といわれている。交感神経の亢進で血圧が上昇、インシュリンも高くなる、コレステロール、TG、ヘマトクリットも上がり、頻脈は動脈硬化の危険因子である。CASTEL試験では高齢者の心拍数が予後を左右する結果が出た。家庭での心拍数が80以上の人では12年間で生存率が低下し、64未満なら予後が良い。Ca拮抗薬は優れた薬だが心拍数上昇に問題がある。N型もブロックする薬剤の使用をお勧めする。
【文明人はNaが増え、K、Mgの減少に加えてストレスが増大】
 非薬物療法も大切で食塩の摂取量を10gに減らし、Kの摂取量を1g増やし、肥満度を24%から18%に、男性の多飲者24%を18%に減少させ、毎日30分の早歩きを国民の10%が行う。これで収縮期血圧が3.8下がり、脳卒中の死亡率は27%、総循環器疾患死亡率は28%減少させることが出来る。
 私たち文明人は、以前は塩分が少なく、K、Mgの多い食事を摂っていたが、嗜好の変化とともにNaが増え、K、Mgが減ってきた。それとともにストレスフルな社会が形成されて、精神的ストレスが多くなった。さらには肥満、運動不足、アルコール、タバコといったものが加わって、高血圧が生まれてきた。日本は、世界に類を見ない形で高齢化社会を迎えようとしているが、高血圧によって脳卒中や心筋梗塞になっては困る。それを予防することが大切である。また高血圧になった場合には、降圧薬療法とともに非薬物療法をおこなって、脳卒中、心筋梗塞を抑制する必要がある。ただただ長生きするのではなく、健康で長生きするということが大切で、Succsesful Agingという言葉があるが、ぜひSuccsesful Agingを目指して治療していただきたい。
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